United Kingdom Open Dance Festival 2025
いよいよ2025年の競技会シーズンが始まりました。英国ではスターボールからユニバーサル選手権という前哨戦を経て、戦いの場は英国海峡に面した高級保養地の一つとして知られるボーンマスへ。1月21日から6日間の日程で今年度の「United Kingdom Open Dance Festival」(UK選手権)が開催されました。

▲会場となったボーンマス国際センター
今大会の特筆すべきことは、プロボールルーム選手権でアマチュアチャンピオンからプロデビューしたばかりのグレン・リチャード・ボイス&キャロリー組が一気にファイナル入りを果たし、第4位に入賞したことでしょう。UK会場のあるボーンマスはボイス組の地元でもあり、プロデビューの場としては彼らにとって最高のシチュエーション。アマチュア時代から、その素晴らしい素質を生かした若く可憐で伸びやかなダンスに魅了されたファンは多く、プロボールルームの新たなスター選手として待望のプロデビューを素晴らしい成績で飾りました。

▲会場となったボーンマス国際センター
1次予選から彼らの存在はピカイチで、長身を生かした美男美女のカップルは、伸びやかでストロングなダンスで会場を沸かし続けていました。順調に駒を進め、一気にファイナリストとしてフロアに立つ姿は眩いばかり。総合4位という成績でも、ワルツとスローフォックストロットにおいては優勝したスタニスラフ・ゼリアニン&イリーナ組、準優勝のドゥサン・ドラゴビッチ&バレリア組のバトルに割って入り、3位にランクイン。中にはこの組に早くも1位をマークしたジャッジもいたほどです。総合3位のスタス・ポルタネンコ&ナタリア組とも僅差での4位。誰が優勝してもおかしくないほどハイレベルなバトルは、今後、世界のボールルームダンスのレベルをさらに押し上げていくことは必至でしょう。

▲世界の強豪選手が一堂に会して、白熱のダンスバトルが繰り広げられた。
優勝はスタニスラフ&イリーナ組。若きチャレンジャーの勢いに動じることなく、ミスのない完成度の非常に高いダンスで全種目1位をマークし、ドゥサン&バレリア組も存在感のあるパワフルでドラマチックなダンスで、これも全種目2位で準優勝に輝きました。5位にはイゴール&リカ組。ウクライナの選手で、今の困難な状況にあっても世界のこの舞台でファイナル入りを果たした気持ちの強さには脱帽の思いです。そして6位は中国のエリック・リー&アンナ組。昨今の中国勢の勢いそのままに見事なファイナル入りです。
惜しくもファイナルを逃したものの、セミファイナリストたちも見逃すことはできません。マディス・アベル&リイス組、アレックス・グンナーソン&エカテリーナ組、マイケル・リー&サンドラ組、カイル・テイラー&アリサ組、ジャンニ・カリアンドロ&アリアナ組、そして中国のフィリップ・ペン&ジョアン組の6組です。いずれ劣らぬハイレベルダンサーたちで、どの組がファイナルに入ってもおかしくありません。この春シーズンに開催される世界各地の大会でのバトルを経て、5月のブラックプールではまたさらに熱い戦いが繰り広げられるでしょう。

▲プロ・ボールルーム表彰
プロラテン選手権でもダンスバトルが炸裂しました。ファイナリストたちのダンスは恐ろしいほどの勢いを持ち、そのエネルギーレベルは半端なく高いものでした。競技の途中で会場総立ちのスタンディング・オベーションが始まったと言えば、そのときのフロア上のバトルがどのような熱いものであったか想像できるでしょう。
そんな大激戦を制したのはドリン・フレコータヌ&マリーナ組。UK選手権初制覇を達成しました。昨年の全英選手権、秋のインターナショナル選手権(ロンドン)に続いての優勝でしたが、今回観客をさらに魅了したのはニノ・ランゲラ&アンドラ組だったように思います。少し前まではトロールス・バーガー&イーナ組VSドリン組の優勝争いの後塵を拝する位置に甘んじていたニノ組だったのですが、今大会ではサンバとジャイブで1位を奪取するなどチャンピオンの座に急接近。1位との距離は相当縮まったと言っても過言ではありません。そしてこの2組に続いて3位にランクインしたマッシモ・アルコリン&ローラ組も、近い将来のチャンピオン候補です。その魅力あふれるしなやかで表情豊かなベーシックアクションに、時折見せるシャープでアクロバティックな身のこなしのコントラストは非常に魅力あるものです。

▲プロラテン優勝のフレコータヌ組のオナーダンス
4位のキリル・ベロルコフ&バレリア組もファイナルになくてはならないエネルギッシュなダンサーで、ほとばしるエネルギー、フロアを仕切る能力も抜群です。鍛えられた強靭で美しいボディを持ったパーシャ・ズヴィチャイニー&ポリーナ組も素晴らしいダンサーです。フロアに立つだけでその強さと美しさに魅了されます。そして、UKファイナルの最後の席をものにしたのはアンドレ・カズロフスキ&ニノ組です。このカップルのルンバは私が特に好きなダンスで、彼女の強さ、セクシーさ、そして美しさには目を奪われてしまいます。初ファイナルを機にこのカップルの評価はもっと上がってくること請け合いです。
昨年の覇者、トロールス・バーガー&イーナ組の怪我からの復帰途中での引退表明、というとても残念な知らせが飛び込んできたところですが、時代はさらに動きを早め、世界のプロのバトルは次へのフェーズに入ってきたように感じます。新たなファイナリストが加わり、チャンピオン争いは大激戦の様相を見せることでしょう。世界トップクラスのバトルから目を離すことができません。
この春シーズンに開催される世界各地での大会でのバトルを経て、5月のブラックプールではまたさらに熱い戦いが繰り広げられるでしょう。そして今年の10月には日本でWDC世界プロボールルーム/ラテンダンス選手権が開催されます。この世界トップクラスの熱き闘いがあの幕張のイベントホールで見られることを楽しみにしておきましょう。

▲プロ・ラテン表彰
アマチュアの選手権も大いに盛り上がりを見せました。ボールルームの優勝は中国のマイケル・タン&アニー組が完全優勝を遂げ、2位には3位との大接戦を制したイタリアのマルコ・シロッキ&ドーラ組が入り、惜しくも1ポイント差でウクライナのオレクサンドロ・ベズクロフニー&マリーア組と続きました。いずれもその組の持つ個性が光り輝く素晴らしいダンスで、それこそ点の奪い合い。最終的には今回はマイケル組のダントツの優勝でしたが、今後もさらにハイレベルな戦いが展開されることでしょう。
アマチュアラテンも素晴らしいダンサーのオンパレード。優勝のアレクサンダー・チェルノシトフ&アリーナはボールルームでも相当なレベルで踊れるダンサーで、ファイナルのイントロダクションのサンバで、冒頭なんと素晴らしいフットワークとスピードのクイックステップでステージ前を突っ切り、その後に持ち味のサンバを踊るというショーマンシップで会場を沸かせました。5種目競技ではほぼすべての審査員が1位をマークし、完全優勝を遂げました。2位と6位には中国のカップルが入り、ラテンでも中国勢の勢いを見せつけていました。3位のコジモ・バーラ&ダイアナ組、4位ジャコモ・バラリン&アレッシア組、5位のアダム・ハザージ&ジュリア組などアマチュアラテン界も甲乙つけ難い素晴らしいダンサーが目白押しです。新たな顔ぶれによるハイレベルな競技は今後も続いていくことでしょう。
日本勢の結果ですが、依然として上位に食い込んでいくのはかなり厳しいものがありますが、そんな中、初日のプロボールルームライジングスターで金野哲也・井之口香織組がセミファイナルに進出。大会2日目のプロボールルーム選手権では福田裕一・エリザベス グレイ組が気を吐きベスト24に駒を進めてくれました。

▲プロライジングスターで準決勝に進出した金野・井之口組
3日目のプロラテンでも日本のエース、野村直人・山崎かりん組がファイト溢れるダンスで世界の強豪相手に素晴らしいダンスを披露していました。ベスト24には届かなかったものの、彼らのあの姿勢は必ずや近い将来評価されるに違いありません。アマチュアボールルームの五月女光政・五月女叡佳組も素晴らしいダンスでライジングのセミファイナルに進出し、オープンでも夜の部のベスト24に勝ち進みました。
今大会を観戦し感じたことは、日本のトップクラスも徐々にではありますが勢いを取り戻しつつあるということです。世界のトップクラスに名を連ねるべく、更なるチャレンジを続け、今のインプルーブを継続していって欲しいと願います。
さて、昨年からこの大会はUnited Kingdom Dance ChampionshipsからUnited Kingdom Open Dance Festivalと名称を変え、大会開催期間も従来の3日間からさらに3日間延長し、開催セクションもプロ35歳以上部門、21歳以下やジュニア、ジュブナイル、シングル競技など多くのセクションが開催されるようになりました。競技フロアもメインのウィンザーホールに加え、サブのソレントホールも使われ、フェスティバルと呼ぶに相応しい一大イベントとなって開催されました。
シニアボールルームで米積雄大・和田みさり組が優勝、プロ35歳以上ボールルームで大澤隆一・林 佳奈組が準優勝、藤家浩史・繭組が第5位、プロ35歳以上ラテンで魚谷征義・笠矢ありさ組が4位、田中直樹・石川真理子組5位、そして夏見和彦・日高麻衣子組が6位に入賞したことをご報告しておきます。
(月刊ダンスビュウ2025年4月号掲載)