今の傾向は? そして次は?
昨年のインターナショナル選手権と今年の全英選手権に続き、ロイヤルアルバートホールでの本戦の審査を担当させていただきました。最前線で戦うバトルをこの目で見続けている私ですが、この大会で見せた世界のダンサーたちの「強化」ぶりには本当に驚かされました。 それはプロアマ問わず、ボールルーム、ラテンを問わず、世界に挑戦しているダンサーたちの成功への道筋として「強いダンス」への傾倒が顕著になっているということです。凄まじい勢いで踊るカップルが相当数に達しており、従来のセミファイナル12組を選ぶ難しさが今や24組、いや40組を選ぶことさえ難しくなっています。
競技ダンスがスポーツの一つとして認識される過程において、身体の合理的な使い方の探究が学問レベルで行なわれている背景も見逃せませんが、近年非常に活発に開催されているダンスキャンプが、この急展開の原動力になっているように思います。ダンスにおける成功例を教え込むやり方で、世界のトップクラスがダンスキャンプに繰り返し参加することで他の参加カップルを「強く」しているのは疑いようのないことです。
ダンスの発展の推移の中で、今はその「強さ」というものが一番に求められている時代なのでしょう。これまでの感覚では、「強い」とはムーブメントの中での「ビジュアル的強さ」と「音楽的強さ」という両方のバランスの良さ、筋力と重力のバランスの良さにあったように思いますが、今の「強さ」はボディの肉体的な強さであり、その強さが躍動を生み、カップルの一体感を作り出し、また時に、その強さが繊細さをも醸し出しているように見えます。
好きか嫌いかという選択ではなく、今求められているものが競技の場に現れているのであって、それを人は「流行」と呼び、その「流行」はその時々で移り変わっていくものなのです。私が現役でUK選手権や全英選手権を戦っていた頃も、ジョン・ウッド組がスティーブン・ヒリア組を破ってチャンピオンになったときは、よりボディウェイトを使ったしっかりとしてゆったりした感じのダンスが受け入れられ、マーカス・ヒルトン組に取って変わったときは、より軽やかでスピーディでちょっとラテンの要素を取り入れた傾向に変わったものです。アンドリュー・シンキンソン組がこの2組のバトルに割って入ってきたときには、より高貴なスタイリッシュなダンスで、全英のスローフォックストロットで1位を奪取したのを鮮明に記憶しています。
ダンスにおける普遍のもの、人間同士の素晴らしい関わり合いが生み出すハーモニーを求めて、踊れる身体作りは日々続けられていくべきものです。と同時に、昔ながらの古臭い考えではなく、今求められているものを体得するために、今のダンスを見て、聞いて、知りつつ基本の身体作りを続けることが肝要なのです。そしてプランを立てて出場する競技を決め、勝負に勝てる準備をすることです。それは地域の自己クラスの勝負から始まるでしょう。そして地域でのオープンの勝負となり、やがて枠を超えて全国での勝負となり、最後は世界での勝負へと戦いの場所が変わっていくのです。
レベルが上がっていき、勝ったり負けたりの勝負の中で色々なレッスンを受けることになるでしょう。レッスンとは「授業や稽古」という意味のほかに「教訓」という意味もあるのです。教訓とは「過去の経験や出来事から得られる学びや指導の要点を表す言葉」(Weblio 辞書)なのです。そして「歴史は繰り返す」とはよく言われることです。レッスンの中で、これまでのこのダンスの発展の歴史を知ることも大事なこと。発展の歴史を知ることは今の傾向の理由を知ることであり、そして次にやってくる傾向や流行を察知することでもあります。
3年先を先取りしてしまうと、人は「それはおかしい、やりすぎ」という評価をするでしょう。が、それを3カ月後、半年後の流行や傾向を先取りできたなら、人は率先してそれを取り込もうとするでしょう。そのためにもいつも競技の場という最前線に身を置いておくことが肝心なのです。
まずは見ること、知ること、感じること。そしてやってみることです。修正を繰り返しながら、絶えず競技の舞台に身を置くことです。なんでもできる自由に踊れる身体を持つことは基本中の基本であり、今はそれ以上に、強い身体を持つことは必須であると受け入れ、トレーニングに励むことです。
2025年の春夏時期は、いったいどのようなスタイルが主流となっていくのでしょう。それは誰も分かりません。だからこそ、それをワクワクしながら日々練習に取り組み、競技の場に進んで身を置き、この秋シーズンの勝負を楽しんで欲しいと思います。
(月刊ダンスビュウ2024年12月号掲載)