自由と調和を目指して・その3 後退ウォーク
「通過」とは、ボールルームダンスの上達に必要不可欠な言葉です。この通過の動作を簡単に言えば、「体重のないステップの上を、体重のある方の脚でウェイトを加速させること」と言えるでしょう。そして、心地よく軽やかにウォークできる理屈を理解し、実際にスムーズでリズミカルな通過ができるようになってきたら、次は「後退」のコツを掴む必要があります。
そもそも後退という動作は、カップルが向き合って右回転、左回転をしながら入れ替わっていくために、前進の人が勇気を持って通過するための安心安全を確保する大事な動作です。後退する人は、後ずさりをするように、前進の人から逃げるように下がってはいけません。後退動作をするときの基本的な動きは、前進動作をするときと同じく、ボールバランスに立っている状態で膝の緊張を緩めることで、その膝が前方に曲がっていき、同時に、太ももの付け根あたりから自身のヒールの方に重心の移動を始めなければなりません。更にムービングレッグの膝も緩みつつ、トウからボールの部分が後方にステップされ始めます。邪魔したり逃げることのないように、これら一連の動作がほぼ同じスピードで行なわれていることが肝心なのです。
後退の初動がうまくいき始めたら、2歩目、3歩目はその回転動作の延長として実際のフィガーに展開していきます。回転量の違いにもよりますが、体重のある方の脚の太ももの付け根あたりの鼠蹊部に前進回転の動作とマッチする量とスピードに注意しながら、後退の動作をしていきます。前進で外回りをする人に道を譲る格好になり、前進の人の移動量よりも少なくなっていることがわかると思います。もし同じ移動量で動いてしまったら、カップルとして回転動作をすることができなくなってしまうからです。
後退回転の動作は更に展開を見せていきます。後退は内回り回転を意味しますから、1歩目の後退の後に2歩目から3歩目へと更にムーブメントは展開していきます。ここからはワルツのナチュラルターンの3歩を例に挙げて説明していきます。 後退回転のとき、基本的に大事にしておかなければならないことは、2歩目の爪先を次にターンしていく方向に向けるという「ポインティング」の動作。ナチュラルターンで言えば第1歩・壁斜めに後退した後の2歩目は、LODに「向ける」という動作で、最終的に3/8(135度)という回転量を作ります。この3/8という回転量は、後退内回りの自然なムーブメントで生じる、あくまで爪先を向けることでできる足元から始まる自然な回転動作です。姿勢の良さが加われば、背骨や背中の筋肉などにCBMというしなやかにカーブするような身体の動きも生まれてきます。
このときに前進回転の人は「回転の2分割」と言われる1/4(90度)から1/8(45度)の2つの回転量を、連続して前進しながら右回転の動作により横方向に加速し、最終的に2つ目の回転量である1/8の足元の回転動作によって両足を美しくクローズすることができます。カップルの入れ替わりを実行するための最も基本的な考え方なので、改めて確認をしていただきたいと思います。
この後退の運動は、前進回転のフィガーを積極的に踊る人の安心安全な道筋を保証するもので、男性がリバースターンの後半で後退する時も、基本的には膝の緩み、太ももの付け根の鼠蹊部あたりにある自然な後退回転から、前進の人に道を譲るような動作をし、前進スウィングで踊る女性の積極性を促す必要があります。
女性が後退するときは、前進する男性がリードしやすくするためのインビテーションとも呼ばれる「誘導」であり、女性としては移動量や回転量を決めて踊るものではありません。あくまで前進の誘導をし、リードをする側の移動量や回転量、そのスピードなどを感じつつ受け入れることが大事になります。ダンスの目的がカップルでのハーモニーを持って踊ることだからです。
スローフォックストロットのベーシックフィガーにフェザーステップがあります。これは女性が後退の動作を連続して踊るもので、CBM、サイドリーディング、ノーフットライズからのCBMP等のテクニックを用いるように教科書には記述されており、ビギナーの方には難しいフィガーですが、女性は予備歩の右足後退を含めて5歩の後退動作ができれば、あとはヒールターンからのリバースターンに自然に展開していけるようになります。まずは5歩のウォークが肝心で、それができるようになれば、ほかのテクニックも自然身に付くようになるでしょう。
身体をリラックスさせ、自然なバランスでスムーズな後退ウォークを心がけることで、前進動作でリードをしようとする男性の動作を「誘導」することにつながります。前後左右に上下動。CBMPの足の位置やスウェイの動作など、身体には自由があります。その自由を失うことなく、カップルでハーモニーを奏でるダンスを楽しみたいものです!
(月刊ダンスビュウ2024年11月号掲載)