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田中英和先生のワールドダンス

コラム&本誌企画

自由と調和を目指して・その2

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 日本人にとってダンスの上達の妨げになっているものがあるとするならば、その一つは「通過」という言葉の解釈にあるように感じます。一般的に「通過」とは、ある基準を止まることなく通り過ぎていくことを言います。例えば、ダンスで右回転の場合は、外回りの人が内回り後退の人の右横を「通過」しますし、左回転であれば後退の人の前を右から左へ「通過」します。これはフロア上でのアライメントを理解すればそう難しいことではありません。

 問題は「もう一つの通過」なのです。これはステップする人自身の、その動いている足の上をボディや振り込んでいる方の足や脚が「通過」するときの話です。昭和の時代、この足の上の「通過」を表するのに使われた言葉に「ON ~ IN ~OUT」というのがありました。ステップする足がフロアにタッチしてON、膝が前方に曲がってIN、その足の上をボディが通過してOUTというものです。実は、このときのONという動作の理解に問題があるのです。

 ボールルームダンス、日本風に言えば社交ダンスですが、それを漢字二文字で表すと「舞踏」となります。舞踏会、舞踏研究会などと普通に使われている言葉ですが、「踏む」という漢字を使っています。「もっと床踏んで~」などと普通に使っていますが、「体重のある方の足を使って」1拍目の第1歩に体重を乗せるように踊っているのです。乗せることで脚力が使えていると実感し、踊れていると勘違いしてしまうのです。

 映画「 Shall We ダンス?」の中で、たまこ先生がビギナー3人の男性にマンボを指導するシーンを覚えてらっしゃいますか? まさにあの動きが日本の常識なのです。ステップという言葉を「足型=体重移動」と解釈していることに問題があるのです。最初は足型を覚えなければならないのは当然のことです。でも問題は、それを上達しているにもかかわらず、いつまでも信じきって、その延長に本当のスタイルがあると続けていることです。特にスウィングダンスの第1歩に関して、ステップとはボディが最もスムーズに足の上を通過していくための基準であり、そこにはまだ体重がない状態を意味します。それにより、加速を持ってステップの足の上を通過していくことができるのです。

 ステップする足に直ぐに体重移動しないのですから、ステップする足の上を通過する前に「ロアという膝にある自由な運動」が大事になります。膝の持つ大きな可動範囲が存分に使われることが、特に競技ダンスでは非常に重要な意味を持ちます。太もも、骨盤から腰椎から胸椎にかけてのCBMという運動に繋がっていくことで、車で言えばハンドルを切るような動作が生まれ、内回りの人の前や横という基準を通過するためのリードができるようになります。後退内回りの人もそれを理解できれば、慌てふためいて後ずさりするような動作もなくなり、前進回転の外回りの人の運動を助けることもできるようになるのは当然のことです。

 タンゴのフィガーにストーキングウォークというフィガーがあります。基本的にはPPからSSSSと男性左足PPで横にステップした後にゆっくり、そしてしっかり体重移動をし、第2歩目もPPでCBMPに右足をステップして体重を乗せる、という単純な2歩で構成されているとてもタンゴらしい雰囲気を持ったフィガーです。タンゴですからロアという言葉は使いませんが、体重のある方の脚の膝の可動範囲を十分に活かしエネルギーを貯めて、ステップを開始します。その足に体重を乗せていくのは進行方向であるPPで横の方向に十分にステップされてからのことで、その瞬間には第2歩目の右足が第1歩目を通過してPPでCBMPにステップされていることは理解しやすいのではないでしょうか。「ステップする足の上を2歩目が通過する」動作は、タンゴの場合にはスタッカートという音楽表現にも繋がっていきます。 フロアにONする体重移動という動作ではなく、ステップという動的基準を、膝の運動と絡めて通過の準備をすると捉えることができれば、一緒に踊るパートナーにもそのタイミングや方向性、移動量、上半身に起こるストレスは必ず半減、どころかストレスフリーになることでしょう。その結果カップルのホールドやトップの大きさ、スタイル、パワーや存在感が格段に良くなるのです。

 体重を乗せていくことにアクセントを感じるのではなく、スタップする足の上を通過するときの自然な動作がアクセントになっているのだという理解に、いち早くシフトできることが上達への必須条件なのです。

(月刊ダンスビュウ2024年10月号掲載)

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プロフィール

  • 田中 英和

    生年月日:8月9日
    出身:広島県広島市出身
    経歴:1997年2月にアデール・プレストン選手とカップルを組み、5月の全英選手権で日本選手初の第3位表彰台に輝く。「ヒデ&アデール」の愛称で国内外の大会で活躍し、翌98年の全英選手権5位入賞を最後に現役を引退。以降、審査員、コーチャーとして後進の育成にあたっている。また、本誌でも、7年にわたって連載レッスン「ナチュラル・ダンシング」シリーズを執筆し、大好評を博した。
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