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田中英和先生のワールドダンス

コラム&本誌企画

自由と調和を目指して!

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 あれよあれよという間に2024年も後半に入ってしまいました。そして本格的な夏の到来です。恐ろしいことに、昨年以上の酷暑とのことで、屋内にいても熱中症の危険があると注意喚起がなされています。健康な食生活と冷房の効果的な利用、水分やミネラルのこまめな補給、そして適度な運動の継続でこの夏を健康に過ごそうではありませんか。

 さて、前置きはここまで。今回のコラムの本題に移ります。1998年10月の「ロンドンインターナショナル選手権」で初のジャッジをして以来、今年の秋でジャッジ経験は27年目に入ろうとしています。今年のブラックプールでの全英選手権でも2度目となる審査を担当しました。英国を始め、国内はもとより世界各地の競技会でいろいろなレベルのダンスを見てきましたし、ジャッジも務めてきました。同時に、レベルアップを図るべくレッスンもしています。そんな者として、今改めて感じていることがあるのです。それは、皆さんは「何を大事にして、何を使ってダンスをしようとしているのだろう?」と言う疑問なのです。

 ボールルームダンスのゴールは「カップルとしての自由と調和」に尽きるのです。言葉を付け加えると、「自由」とは二人が共有するダンスフロア、音楽そしてスペースを使う「共有の自由」であり、それに正しい知識と経験が肉体を通して合理的に表現されるときに「カップルの調和」が生まれるのです。そしてそのダンスから見えるものは、「自然」という言葉で言い表せるものなのです。

 ボールルームダンスのレッスンで昔から言われていることに、「フロアが一番の友達」というものがあります。ダンスパートナーと踊るときに、二人がまず共有しているのはダンスフロアです。「体重のある方の足を使って踊りなさい」という常識的に言われている言葉ですが、もう少し正確に言うならば「ダンスシューズを履いている体重のある方の足で、床を使って踊りなさい」となります。

 合理的な骨格のつながりとボールバランスと呼ばれる正しいバランスを条件に、体重のある方の足でフロアにプレッシャーをかけ始めると、その反発として身体の中にさまざまな微妙な変化が生じるはずです。それはホールドやボディコンタクトなどを通じて、パートナーもそれを感じることができるものなのです。なぜ、それが感じられるのでしょうか? それは次の方向に移動するための「時間を含めたパワーのある変化」が生まれるからです。その「時間とパワーのある変化」はいつ、どの方向に、どれだけ行くのかを実行するためのエネルギーであり、パートナーにとってフォローするための必須条件なのです。すなわち、それ無くしてボールルームダンスにおけるカップルの一体感へのアプローチは難しいと断言します。カップルダンスにおける非常に大事な瞬間と言えます。

 そして「体重のある方の足でフロアを使う」ことをきっかけに、カップルのトップを大きく美しいものにし、スピーディでパワフルなダンスに転じていくなど、魅力ある全ての可能性が一気に高まるでしょう。そのようなダンスを披露するカップルは、特に競技の場では必ず高く評価されます。なぜなら、競技会はその「技」を競うものだからです。それがスポーツダンスと言われるものであろうと、カップルダンスである以上「カップルの自由と調和」を目指した結果として出来上がったスタイルとムーブメント、そしてその音楽性を競うことに変わりはないのです。

 私にとって審査の基準は単純明快です。どのレベルでの競技であろうと、カップルが「何を大事にしているのか」、「何を使って踊っているのか」、それによって「何を生み出しているのか」の見極めであり、フットワークなどの基本テクニックを踏まえた上で、カップルのスケールの大きさや一体感、その音楽性、エネルギーレベルの高さなどで総合的に評価しているのです。 「体重のある足を使って踊る」という言い方は、ダンスの世界では一般常識です。自分自身の体重やその重さを自身の足に感じることで重心移動や膝の使い方、ステップの仕方などを学んでいくのが通常の過程だからです。誰しもこの言葉でダンスを習い始め、それを続けることで上達していけるのも事実です。

 しかし、ある程度のレベルに到達した段階で、使うものを自分自身の足から、二人が共有しているフロアを使って踊るという意識へ変えていくことが必要と私は考えます。上達に悩んでいる人も競技の世界でさらに羽ばたいていこうと思う人も、今一度「体重のある方の足でフロアを使って踊る」意識を持ってトライしてみてはいかがでしょう。インプルーブも理解が深まるにつれて無限のものになっていくことでしょう。

(月刊ダンスビュウ2024年9月号掲載)

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プロフィール

  • 田中 英和

    生年月日:8月9日
    出身:広島県広島市出身
    経歴:1997年2月にアデール・プレストン選手とカップルを組み、5月の全英選手権で日本選手初の第3位表彰台に輝く。「ヒデ&アデール」の愛称で国内外の大会で活躍し、翌98年の全英選手権5位入賞を最後に現役を引退。以降、審査員、コーチャーとして後進の育成にあたっている。また、本誌でも、7年にわたって連載レッスン「ナチュラル・ダンシング」シリーズを執筆し、大好評を博した。
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