Blackpool(ブラックプール)
今年で98回目を迎えた伝統と格式の全英選手権「Blackpool Dance Festival」。やはりマジカルな大会でした。毎年年明けのUK選手権から始まる世界レベルでのバトルは、2024年5月末のこの大会で最高潮を迎えるのです。今年の大会も世界のトップクラスの選手、そしてこの大会を最高の舞台として人生をかけてきたダンス人たちの多くが集まり、夢のFestivalの幕が切って落とされました。プロラテンライジングスターを皮切りに、多くの観客の熱い視線を受けながら連日白熱の競技が繰り広げられたのです。
そして私にとって誇らしいことに、今回、6年ぶり2回目となるFestival夜の部の審査員を務めさせていただきました。1998年の大会最終日、プロボールルーム第5位入賞を最後にその場で引退表明をして、20年目の2018年に初めてのジャッジ、そしてさらに6年を経て今回2回目のジャッジです。
アデールとカップルを組んだ1997年にはコングレスで初のレクチャーをし、その後もこのコングレスでは2度の講師を務め、さらにエキジビション競技のジャッジも2回、チームマッチのキャプテンも、そしてそのチームマッチの審査員に昨年初めて招待を受けました。全英ライジングの優勝からほぼ四半世紀を経て、やっと全英のジャッジスタッフとして認めてもらった感覚です。
こうして毎年開催されているこの大会では、過去において全英選手権のチャンピオン、ファイナル経験者のみが審査員として招かれることで、選手も観客も皆が世界最高峰として認める「権威」の位置付けが守られているのです。
今年は現チャンピオンであったバレリオ・コラントーニ&アナ組がチームマッチで引退表明をし、その翌日にはカクテルパーティで昨年のファイナリストだったエルダー・ザファロフ&アナ組も引退デモを踊り、ファイナルの席が2つも空いたのに続き、さらにチームマッチで踊ったにもかかわらず今大会に出場しなかったスタス・ポルタネンコ&ナターリア組、全英前のThe Open Worldsで優勝に輝いたスタニスラフ・ゼリアニン&イリーナ組も出場しなかったことで、最終日プロボールルームは7ラウンドにわたる大激戦となり、終了が深夜1時に及ぶ大バトルとなりました。制したのはドゥサン・ドラゴヴィッチ&ヴァレリア組。念願の初優勝に多くの祝福の拍手が送られました。2位にはフェドー・イサエフ&アナ組、3位にUKでも大躍進を見せたイゴール・レズニク&リカ組と続きました。
プロラテンでもチームマッチには出場したものの本戦には出場しなかったトロールス・バーガー&イーナ組をはじめ、ニノ・ランジェラ&アンドラ組、マッシモ・アルコリン&ローラ組、パヴェル・ズヴィチャイニイ&ポリーナ組の不在で、これも新ファイナリストの座を賭けた熱戦が繰り広げられました。これら世界のトップファイナリストが不在でも、世界には素晴らしいダンサーが多数存在します。ラウンドが進むにつれて、会場は拍手、手拍子に包まれ、まさにマジカルな雰囲気が充満。そして他を圧倒して優勝を飾ったのは昨年に続きドリン・フレコータヌ&マリーナ組、準優勝はファイナル常連のキリル・ベルルコフ&ヴァレリア組、そしてクレメン・プラスニカ&アレクサンドラ組と続きました。
日本からも世界にチャレンジする姿勢で多くにエントリーがありましたが、ほとんどは早いラウンドで姿を消す結果となりました。が、そんな中で特筆すべきことがあります。それはアマボールルームライジングスターで第4位に入賞した五月女光政・叡佳組の大活躍。その躍進ぶりには目を見張るものがあります。21歳以下の部門でもセミファイナルに進出。ファイナルに行っても全く引けを取らない踊りは、近い将来のオープン戦での大ブレークを期待させるに十分なレベル。まさに将来の日本のエースです!
プロのセクションでも注目されたのが、プロラテンでベスト24に進出した野村直人・山崎かりん組です。私の目にもセミファイナルを疑う要素など皆無。当然勝ち上がっていける素晴らしいチャレンジを見せてくれました。今大会の夜の部の全てをジャッジした者として、この組が世界が認めるレベルに成長したことは明らかだと判断します。このインプルーブを持続していけば、秋の国内のビッグコンペはもちろんのこと、アメリカでの世界選手権、ロンドンでのインターナショナル選手権など、世界の舞台でさらに進化したダンスを見せてくれることでしょう。大いに期待したいものです。
最後に、ブラックプールにダンス人生をかけて、そして夢を追ってきたダンス人として、私自身の経験と信念を持ってジャッジさせていただいたことを記しておきます。
(月刊ダンスビュウ2024年8月号掲載)