全英~新たな感動と歴史へのアプローチ
5月といえばブラックプール。英国北西部に位置する英国最大の保養地として有名な街です。毎年この5月から6月にかけて「ブラックプールダンスフェスティバル」が開催されています。英国のボールルームダンスの発展を支えてきた街であり、競技ダンスのメッカであるこの地に世界中からトップダンサーたちが集まり、夢の競演が繰り広げられてきたのです。今年でなんと98回目を迎えます。
場所は市内の中心にあるウインターガーデン。その中に素晴らしいエンプレスボールルームがあります。その歴史ある会場に一歩足を踏み入れたら、その伝統からくるマジカルな雰囲気にダンサーたちは一気に飲み込まれてしまいます。今年も世界のトップダンサーたちの熱い戦いが繰り広げられることでしょう。
一方で、前号でも紹介したように、このフェスティバルに先駆けて「オープンワールド」という新たな競技会が、ブラックプールタワーのボールルームで華々しく開催されました。マーカス・ヒルトン氏がフェスティバルのチェアマンから下されたことや、政治的な動きが背景に見え隠れしたことをきっかけに始まったと個人的には思っているこの大会ではありますが、今となっては大会の名称そのままにオープンで自由な大会として開催され、ダンスのメッカとしてのブラックプールで開催されるもう一つのイベントとして急成長しています。日本からもなんと15名が審査員として参加しました。
主催は、かつての世界屈指のラテンダンサー、ポール・キリック氏です。マーカス・ヒルトンMBE、ブライアン・ワトソン氏とグラハム・オズウィック氏をチェアマンに据えて、大会は大成功。各セクションで熱戦が繰り広げられました。
世界では、たとえ個人でもその国のカウンシルが公認すれば競技会を開催できるというシステムがあるため、ビッグスポンサーの後援を得て、こういった大会が世界レベルで開催できるのです。
一方、日本のダンス界の発展は、組織あって成し得たのであり、それを一気に変えていくのではなく、規制緩和も含めて、より柔軟により良いイベントが開催できるようにしていく。それが国内のダンス界の活性化にも繋がるのではないかと考えます。これまでのダンス界の発展の歴史を重んじつつも、これからの発展形を作り上げていくためにも組織を超えたダンス界の再編が急がれます。
さて、世界のダンスの流行も急ピッチで展開を見せています。ダンスのスタイルがラテン、ボールルームともにパンデミック以前のスタイルとは違った、観るものを圧倒するほどのエネルギーで、よりパワフルでダイナミック、よりシャープでスポーティなダンスが主流となってきています。「バーン・ザ・フロア」の言葉の如く、フロアの上では火花が飛び散るほどのエネルギーが炸裂しているのです。観ているだけでもワクワクするような、エネルギッシュなダンスが世界常識になっているのです。
ただ、ボールルームで言えば、かつてのピーター・エグルトン&ブレンダ、ビル&ボビー・アービン、アンソニー&フェイ・ハーレー、リチャード&ジャネット・グリーブ、マイケル&ヴィッキー・バーなど、ラテンアメリカンではピーター・マクスウェル&リン・ハーマン、アラン&ヘーゼル・フレッチャー、エスパン&システィン・サルバーグなど、私たちの先輩や私と同じ世代が追い求めていたあの時代のダンスと、今のそれとはかなり趣を異にしています。それはもちろん、時間が流れているからなのです。時代が移り変わっていく中で、その姿は形を変えていくものだからです。
しかし、スポーティでエネルギッシュなスタイルに展開していこうと、人間同士が向き合って踊るものである以上、そこには普遍のものがあるはずです。人間同士が一つの理想に向かっていくことに何ら変わることはありません。流行や技術の先にあるのは、本当のものだけが私たちに与えてくれる「感動」なのです。
さあ、今月下旬に開催するブラックプールダンスフェスティバル・全英選手権では、プロアマ競技から始まり、アメリカンスムーズ、アメリカンリズム、35歳以上、50歳以上、21歳以下、フォーメーション、エキジビジョン、ライジングスター、オープン選手権など実に多くのセクションで競技が繰り広げられます。
エンプレスボールルームであのオーケストラの素晴らしい演奏で、ダンサーたちの火花を散らした熱き闘いが連日繰り広げられます。バトルを勝ち抜いたセミファイナリスト、そしてファイナリストたち。そして最後の決戦を制した1組が新チャンピオンの栄冠を手にするのです。2024年の全英でまた新たな感動と歴史が作られていきます。その証人になるべく、私もこの目でしっかりとこの大会を見ておきたいと思います。
(月刊ダンスビュウ2024年7月号掲載)