今問われる日本人競技ダンサーたちの姿勢
今年も早いものですでに桜の季節も終わり、薫風香る5月に差し掛かっています。そして、その5月といえば、今年で98回目を迎える伝統の「全英選手権」が5月24日から月末の31日まで開催されます。再来年の2026年には100年目を迎える歴史ある大会で、やはりあのウィンターガーデンのエンプレスボールルームというマジカルな空間で踊ることは、競技ダンサーにとってまさに憧れの場であります。今年も益々ヒートアップして盛大に開催されることでしょう。
そして、2つ目のブラックプールとして定着しつつある「オープンワールド」も、また注目度の高い競技会です。期間は5月7日から14日まで。会場はブラックプールのランドマークであるブラックプータワー内にある素晴らしいボールルーム。
4月の中旬、今この原稿を準備している間にも、すでにロンドンのメインのダンススタジオでは、5月の大会に向けて、地元英国を始めイタリア、ポーランド、アメリカ、中国など世界各地から多くの選手がレッスンと練習に励み、更なるレベルアップを図っているのです。
そして大会前には、個人レッスンと練習というパターンとは別に、ダンスキャンプといった強化合宿のようなプログラムが用意されている例も多く、参加者全員による踊り込みなどで心と身体のトレーニングを積むのです。レッスンも肉体の強化を目的としたものがメインで、スタイルの確立や筋力強化へのアドバイス、はたまた作戦参謀としての戦略指導などビッグイベント直前の選手向けトレーニングでサポートしているようです。
しかし――。日本人選手のほとんどは5月のゴールデンウィーク明けのタイミングで英国、イタリアなどに移動し、調整を始めるのがほとんど。私個人の正直な気持ちを述べると、5月に入ってからの現地での始動では、すでに世界の競技の場においてかなりの後れをとっていると言わざるを得ない状況です。簡単に言ってしまえば、普段から計画性を持ってダンスの質の向上や強化していくという積み重ねやそれを遂行するメンタルの強さ、貪欲さが、他国の選手に比して弱く思えてしまうのです。世界に挑むと決めた以上は目的意識を持って取り組み、世界レベルでの強化合宿に参加して、しっかりと追いついていけるよう、そしてそれを自分のインプルーブのチャンスになるよう懸命に頑張ってほしいと思います。
さて、普段からの問題意識を持つ姿勢の現れに、オンラインレッスンというものがあります。パンデミックで移動ができなかった頃に苦肉の策で始まったものですが、パンデミックが終焉したこのタイミングであっても、私にも海外からオンラインレッスンの希望が多数舞い込んできています。私の英国での選手サポートは5月に入ってからの予定ですが、それでは現状のトラブルを解決するには遅いと判断したのか、4月に入ったあたりからオンラインでのレッスン希望が激増しているのです。
もちろん実際に会って手取り足取り、一緒に踊ったり、コーチャーのボディを感じることでレベルを上げるような直接指導ができないという難しい面もありますが、レッスンの冒頭から高い問題意識を持った質問をしてくることもしばしばで、表に見える不具合を発見し、その不具合の原因をディスカッションする中で解決していくレッスンになっています。カップル自身もその理由を発見し、それを修正していく方法を学ぶ素晴らしい側面もあります。そんなカップルのダンスに対する姿勢はまさに真剣で、問題を解決してインプルーブへのクリアな方向性を求めているその姿は、指導する側をもレベルアップさせるという相乗効果をもたらしてくれます。
海外の選手たちにとってインターネットでのレッスンは、極めて効率の良い、有効な手段であることは明らかです。他国の選手と同じことをする必要はありませんが、今のように国内でイベントの多い環境にあっては、時間をもっとも有効に使って最大限の効果を求める、より積極的な姿勢があってしかるべきです。
来年2025年の「WDC世界選手権」日本開催に向けて、成功への準備が進行しつつある現状でもあります。5月の全英選手権はもちろんのこと、6月の「日本インター」シリーズ、9月・10月時期の「全日本戦」などのビッグイベントもあっという間にやってきます。今からでも遅くはありません。来年の世界選手権をしっかりと視野に入れて、問題意識を高く持ってインプルーブするためのプランを作成し、実行に移してほしいと願います。
(月刊ダンスビュウ2024年6月号掲載)