組織の枠を超えて
この春、JDCの「アジアオープン」に始まり、JBDFの「スーパージャパンカップ」、JCFの「ユニバーサルグランプリ」と各団体主催のビッグイベントが続き、大いに盛り上がりました。これらのビッグイベントでは団体の垣根を超えて選手が出場できる方向性が一段と明確になり、この流れは長年ダンス界の分断によって弱体化を余儀なくされた時代の終わりが近いことを告げるものとして大変に喜ばしいことだと思います。もちろん、まだすべてオープンでフリーというわけではありませんが、競技の場で選手同士が競い合える環境は素晴らしいダンサーを輩出する土壌となり得ると考えます。
しかしながら、ここ数年の「世界選手権」や「全英」「ロンドンインター」、今年1月の「UK選手権」などを見てもわかるように、日本の選手は総じて世界に伍して戦うに十分な力を持っているとは言えないのが現状です。世界の大会において、中国や韓国の後塵を拝することも多く、組織的に見ても既にアジアの盟主が中国に代わっている感があります。国内における長年にわたる組織の分断が今の状況を作ってしまったことは、否定し難い事実なのではないでしょうか。
なんとかレベルを上げていかねばならないと願っているのは、ダンスに携わる者すべての共通認識で、海外からもトップコーチャーたちが続々と来日し、日本人選手の強化に尽力してくれていますが、それでも依然として個々の努力に頼っているのが現実です。日本円が弱く、インフレや業界自体の弱体化で資金的にかなり厳しいことも、ダンスレベルの向上の妨げとなっていることに大きく影響しています。実際、世界のトップコーチャーのレッスン代がかなりの高額になっている現実も厳しさを感じます。
否定的材料が続きますが、日本では、自身のダンスのレベルを上げていくための(ダンスに没頭できる)時間をたくさん取ることが難しい国でもあります。例えば、選手強化を目的としたダンスキャンプも日本ではなかなか行なわれていません。日本では平日は仕事をするのが当たり前で、ダンスに集中するキャンプを開催したり、参加する感覚を持ち合わせていないからです。週末にすれば良いという意見もありますが、週末にはパーティや競技会などが盛り沢山で、なかなか時間が取れないのも現実なのです。
世界的にはポーランドやイタリアなどヨーロッパ各地で、最近では東南アジアの国々でもトレーニングキャンプの開催が頻繁に行なわれ、そこに世界のトップコーチャーたち、そしてその地域の選手たちをはじめ、世界レベルの選手たちが集い、さらなるレベルアップを図っています。通常、週末の土曜、日曜に開催される国際大会の前、平日の3~4日間を利用して開催されることが多いのですが、参加者はその期間、ダンスレベルの向上と強化に専念するのです。
内容的には全員でのストレッチや筋力強化のトレーニングから始まり、各コーチャーのワークショップと呼ばれる参加体験型レクチャー、プライベートレッスン、自由練習などで、それこそ「ダンス漬け」の日々が続きます。日本人がダンスキャンプに参加できるのは、英国やイタリア、ポーランドなどに海外遠征や留学、研修に行ったときくらいなのです。
しかし、来年10月に「WDC世界プロボールルーム、及びラテンアメリカン選手権」の日本開催が決定しています。その世界選手権で日本の選手たちが世界に伍して戦っている姿を期待するのは当たり前ですが、ただ夢のようなことを期待するだけでなく、それを現実のものにすべく何か手筈を考えなくてはなりません。組織がまず率先してコングレスや講習会を開催すべきですが、大きな打ち上げ花火を上げる如く、一度にたくさんの人を集めて華々しく1回限りのイベントをするのではなく、できる範囲で、できるエリアと時間を有効に使って、繰り返し頻繁に集中して取り組める場と時間を持つべきだと考えます。有志が集って平日であっても午前中や夜の時間帯を利用して、定期的にワークショップや練習会などを各地域で開催し続けることを基本に考えるべきです。
戦国時代の毛利元就の「三矢の訓え」のごとく、組織や団体の枠を超えて、皆が集まり経験をもとに知恵と技を分かち合う姿勢を明確にしていけば、個の努力が全体のエネルギーの高まりとともに実を結ぶことは自明の理です。
それは来年の世界選手権のためだけでなく、ダンス界の明るい未来への発展のためにも、そんな夢を持った仲間が集い、全国に広めていけるかが鍵になるのではな
いでしょうか。組織の枠にとらわれない方向性を生み出すことです!もっともっと皆でダンスにハマり、ダンス談義に花を咲かせようではありませんか!
(月刊ダンスビュウ2024年5月号掲載)