インターナショナル選手権
英国3大大会の一つ、「インターナショナル選手権大会」(通称:ロンドンインター)は今年で70回大会を迎えました。会場のロイヤルアルバートホールは5000名を超える観客で埋め尽くされ、全てのチケットが完売となるほどの盛況ぶり。大声援の中、レベルの高いダンスバトルが繰り広げられ、大成功のうちに無事終了しました。
中でもプロラテンとアマボールルームのセクションは非常にレベルが高く、まさにデッドヒートという表現があてはまる白熱したダンスバトルでした。トロールス・バーガー&イーナvs.ドーリン・フレコータヌ&マリーナ。優勝候補の2組が予選から同じヒートで踊るのですから、彼らのパフォーマンスはまさに火花を散らすかの如くで、同じフロアで踊る全てのダンサーたちをさらにヒートアップさせていました。
この2組を虎視眈々と追うのがニノ・ランジェラ&アンドラですが、4位に大躍進したマッシモ・アルコリン&ローラも観客を魅了するに十分なダンサー。5位・6位に終わったパベル・ズヴィチャイニ&ポリーナ、キリル・ベロルコフ&ヴァレリアも強靭でかつセクシーな、そして完成度の高い、躍動感あふれる素晴らしいダンサーたち。これらの成績順位は採点の集計でそうなっただけで、ファイナリストたちのダンスバトルのレベルの高さは過去最高レベルに到達していたと言えるでしょう。
アマボールルームも、英国のグレン・ヴォイス&キャロリーを筆頭に、中国のマイケル&アニー、イタリアのマルコ&ドーラ、ウクライナのサーシャ&マーシャと続きましたが、セミファイナルクラスにも将来性のある非常に魅力のあるダンサーが目白押し。特に中国、ウクライナ、ポーランドなどの国々に魅力あるダンサーが相当数存在しています。
日本からも五月女光政・叡佳組が大健闘を見せてくれました。ロンドン郊外東部にあるギリンガムでの予選会を見事通過し、ロイヤルアルバートホールで踊れる切符を手にしたのです。今後さらに力をつけて上位に勝ち進んでいってほしいと願います。
世界的に競技ダンス人口は減少傾向にあるとは言われていますが、競技に向かうダンサーのレベルは逆に上がってきているように感じます。来年ロイヤルアルバートホールで開催されるこの大会の最終日は10月3日。それまでにさらにトレーニングを積み、魅力を増した肉体を作り上げ、カリスマの域に達するようなダンスを目指して世界は進化していくでしょう。これからますます楽しみです!
それと政治的な話でちょっと心配なニュースが入ってきましたので、少し触れたいと思います。それは今後の英国の、いや日本を含めた世界のダンス界に影響を及ぼすかもしれない大きな動きです。
それはマーカス・ヒルトンMBEをチェアマンとする「英国ダンススポーツ協会(BDSA)」という組織が発足したことです。英国には長年に渡り「英国ダンス議会(BDC)という組織があり、英国のダンス界を取りまとめてきた歴史があります。それに取って代わるような動きを見せているのがこのBDSAという新しい組織。しかもそれが、このインターナショナル選手権直前の10月3日に突如としてSNS上に発表されたのですから、このニュースは英国内はもとより世界中に駆け巡り、この団体、組織の目的や既存団体との関係性がどうなっていくのかなどの話で持ちきりになりました。
現BDC会長のクリストファー・ホーキンス氏も、この新しい組織の立ち上げのタイミングなどに、かなりの不快感を示しているのも事実です。
これは英国ダンス界を分裂させ、世界をさらに混沌とする状態に陥らせるものなのか、はたまた長年の軋轢を一掃しひとまとめにしてくれる成功モデルの先駆けとなるものなのか、今現在は全くの未知数と言うしかありません。今後それがどのように動きどのような流れになるのか、静観するしかないように思います。
が、ただ言えることは、今や世の中は組織運営にあたり、コンプライアンスやガバナンスが叫ばれる時代になっています。今の時代が求めている法令遵守のスタイルにバージョンアップしていかなければならないのは、ダンス業界も同じこと。これまでのやり方では通用しなくなってきているのは明らかなのです。
だからこそ、これからのダンス界を牽引し、英国ダンス界の全てを網羅する大きな傘となるべく、この組織が立ち上げられたものと私は解釈していますが、本当にそれがどのような展開を見せていくのかは、マーカス・ヒルトン氏の手腕にかかっていると思います。英国ダンス界が分裂するような騒動にならないことを祈るばかりです。
(月刊ダンスビュウ2023年12月号掲載)