世界へのチャレンジ
この夏は、これまでの自粛ムードで開催を断念したり、感染対策を施した中での開催など、我慢を強いられてきた鬱憤を晴らすかのように、全国のあちこちでダンスパーティが賑やかに開催されました。パーティ参加の皆さんはダンスタイムを楽しみ、会話を楽しみ、食事を楽しみ、演技発表にも多くの声援を送って、ほぼ以前の盛り上がりに近づいてきたようです。毎年お盆時期に開催の「ワールドスーパースターズ」も今年はかつての賑やかさを取り戻したようで、世界のトップダンサーたちを一堂に集めて素晴らしいイベントとなったようです。
さて、今年は「アジアオープン」や「日本インター」などの国際競技会で、世界のトップダンサーたちのバトルをこの目で直接見ることができるようになりました。今、海外のトップダンサーたちの迫力あるパフォーマンスを目の当たりにし、この我慢の期間中に世界のダンスが驚くほどにレベルアップしていたことに気付かされたのではないでしょうか。
特にラテンダンスの今のレベルは、パンデミック前のグレートチャンピオン、コッキ組やマリトウスキー組に匹敵するほど完成度の高いレベルに上がっていると見ます。トロールス・バーガー&イーナ組、ドリン・フレコータヌ&マリーナ組のバトルがこのレベルアップに貢献しており、この2組を猛追するニノ・ランゲラ&アンドラ組やキリル・ベロルコフ&ヴァレリア組、クレメン・プラスニカ&アレクサンドラ組など、魅力あるダンサーたちが目白押しです。
ボールルームでは現チャンピオンのヴァレリオ・コラントーニ&アナ組をスタニスラフ・ゼリアニン&イリナ組、ドゥーサン・ドラゴビッチ&ヴァレリア組、スタス・ポルタネンコ&ナターリア組らが追う展開になっており、レベル的にはこれらのカップルの差はかなり接近しているのではないでしょうか。そしてマディス・アベル&リイス組がこの秋、トップクラスに肉薄してくることが予想されます。彼らのスター性あるダンスは新たなボールルームダンスのスタイルを生み出すほどの影響力を持つかもしれません。
加えてアマボールルーム部門で急成長のグレン・ヴォイス&キャロリー組は、将来のダンス界を引っ張っていく魅力溢れるカップル。まだ先の話だと思いますが、この組がターンプロするとき、また新たな歴史が始まるような気がします。
日本でもラテンチャンピオンの野村直人・山﨑かりん組が「Open World」のライジングスター部門で第3位に入賞するなど世界ダンサーの仲間入りを果たしている他、若手のエネルギッシュで伸びやかなダンスを見る機会が増えているのも事実です。このような勢いは、日本のレジェンドダンサーたちの指導力の強さが要因の一つであろうと思われます。まだ世界のファイナリストに伍しては戦えないにしても、近い将来、世界の壁を破るチャンスがくることを予感させます。
一方、ボールルームでは、今のレベルから脱却する糸口が見出せない、何となく停滞ムードに陥っているように見えます。世界トップクラスを指導している経験からすると、日本のボールルームダンサーは押し並べて、綺麗に踊れる「上品さ」は持ち合わせていますが、その先に求められる「強さ」が足りません。やはり日本人ダンサーは「弱い」と言わざるを得ないのです。「強さ」とは肉体的、身体的な強さもありますが、音楽を利用しての緩急をつける能力、個性の強さからくる自己主張なども当然含まれます。
世界への突破口を見出すためにも、男女ともにさらに魅力的に鍛えられた美しいボディと、強くしなやかな下半身が必要だと思います。ボディビルダーになるまで筋肉を付けるのではなく、音楽に対し俊敏に確実に、そしてフレーズいっぱいに反応、そして躍動するための訓練が必要なのです。私たちの持つ綺麗に踊れる「上品さ」と「強さ」が融合するとき、ホールドはさらに洗練された頑丈さを確立し、内回りや外回りの考え方やフットワークなどの基本の理解をさらに深めていけば、自分のすべきこと、やりたいことが自由にできる、世界に通用する身体を作り上げることができるのです。
上手いダンサーである前に「強いダンサー」であること。今の世界の競技ダンスでは必須の要件です。「日本人離れし……」という言い方がありますが、まさに日本人離れした存在感ある身体能力と雰囲気を持つバランスの取れたカップルの登場が待たれます。
サッカーや野球、体操、水泳など、あらゆる分野で世界で活躍する日本人が相当数いるのですから、このダンスの分野でも、世界で活躍できないことなど絶対にありません。
(月刊ダンスビュウ2023年10月号掲載)