全英選手権
先月号でお伝えしたとおり、この5月は英国で「2つのブラックプール」が開催され、世界から多くのトップダンサーたちが参加し、素晴らしい熱戦を繰り広げました。まずひとつめのブラックプールはタワーボールルームで開催された「The Open Worlds」。演奏はレン・フィリップ・オーケストラで、エネルギッシュなパワーのある演奏をバックに、子供のセクションからプロのイベントまで実に多くのカテゴリーが開催され、パンデミックを乗り越えた喜びをいっぱいに連日夜遅くまで開催されました。
そしてもう一つのブラックプールは歴史と伝統の「Blackpool Dance Festival 全英選手権」です。エンプレス・オーケストラの迫力ある演奏は、選手たちの踊るエネルギーを倍増させ、世界レベルの大会にふさわしい素晴らしい演奏でした。歴史ある素晴らしい会場、音楽、豪華なジャッジメ
ンバー、そしてなんと言っても、主役である選手諸君の生き生きとしたダンスが渾然一体となった最高のダンスバトルで大いに盛り上がりました。
今年で97回の開催を誇るブラックプールダンスフェスティバルは、従来のセクションにアメリカンリズムとアメリカンスムース部門などが加わり、大会期間も13日間の長丁場に拡大。日本でも最近、アメリカンスムースが徐々に広まりつつありますが、従来の伝統を重んじるフェスティバルも、時代の新しい流れを受け入れながら、さらに発展していく方向に舵を切った感じです。
今回のフェスティバルの後半、従来の競技セクションには、昨年より明らかにエントリーが増え、観客の数も徐々に復活傾向にあるように感じました。日本からのエントリーも増えてきましたが、やはり特筆すべきは中国からのエントリー。特にスタンダード、ラテンともにアマチュアの、しか
も21歳以下の若年層の選手がとても多くなりました。しかも、レベルが年々向上しており、その上達ぶりには目を見張るものがあります。
その一つの証拠に、今回初めて、フェスティバルの最終日に「アマチュアのチームマッチ」が開催されました。この第1回目で、見事ダントツの優勝を飾ったのが「中国チーム」。今アマチュアの世界は、中国選手が席巻していると言っても過言ではありません。
一方、プロのチームマッチでは世界ラテン界のトップ、ドリン・フレコータヌ&マリーナ組、トロールス・バーガー&イーナ組、世界スタンダードのトップ、ヴァレリオ・コラントーニ&アナ組、スタニスラフ・ゼリアニン&イリーナ組らも出場する非常にレベルの高いバトルが繰り広げられ、優勝は、今やプロの世界では常勝のアメリカチーム。地元イギリスチームを抑えてダントツの優勝を飾ったことを報告しておきます。
そして今回のチームマッチで私は、カナダのメリアム・ピアソン女史、アイルランドのアラン・クラーク氏と共に審査員に招かれました。私も現役時代に日本チームの一員としてこのチームマッチに出場しましたし、引退後にはチームキャプテンを務めたこともあります。そして今回、大変栄誉なことに審査員として参加することができたことを、とても誇らしく思います。
そして最後に、今年の「2つのブラックプール」に参加して感じたことを書き加えておこうと思います。それはパンデミック後の世界のダンス界は、明らかに、何か新たな動きが始まっているということです。この「2つのブラックプール」という構図は、将来へのさらなる発展を目指す肯定的な動きだと期待したいのですが、しかし、この「2つ」の間には何らかの軋轢、そしてその背景には政治的な駆け引きが存在しているようにも思えるのです。それは、1つ目のブラックプールには出場したラテンのファイナリスト、ニノ・ランゲラ&アンドラ組や、現にチームマッチで素晴らしいダンスを披露したバーガー組やゼリアニン組、スタス・ポルタネンコ&ナタリア組も全英選手権には出場せず、ブラックプールを後にしています。さらに、一部の世界的に著名なコーチや審査員レベルの方たちが、2つ目のブラックプールに姿を見せていないのも事実です。これはとても残念なことです。
来年、この「2つのブラックプール」は、さらにその開催時期が接近するとの話も聞いています。それは皆で盛り上げていく流れになるのか、それとも全く違う方向に向かって行ってしまうのか…。期待と不安が入り混じった複雑な心境なのは、私だけではないかもしれません。
(月刊ダンスビュウ2023年8月号掲載)