2023年は「新たな始まり」の年
3年前の今頃、世界のあちこちで得体の知れないウィルスが猛威を振るい始め、日本でも感染者の急増に伴い、その年(2020年)の4月上旬には緊急事態宣言が発出されるに至りました。悪夢の始まりでした。
あれから3年の月日が経ち、ようやく海外との交流も持てる段階まで回復してきました。ダンス界でも今年は国際大会がよりオープンに開催されていくことが期待されます。2月のJDC「アジアオープン」や6月のJBDF「日本インター」、9月のJCF「ギャラクシー」などのビッグイベントにも、海外から多くの選手や審査員、オーディエンスがやってくるのではないでしょうか。
もちろん日本から海外への動きもさらに活発になることでしょう。近場の韓国や台湾だけでなく、近年勢いの増している東南アジア諸国も国際イベントが復活してきています。イタリアや英国、ドイツやポーランドなどへダンスキャンプや競技会に参加する日本人カップルも増えることでしょう。2023年は「新たな始まり」の年になりそうです。
私は今、ロンドンでの活動中なのですが、英国で研鑽を積む世界のトップダンサーたちの「今」を肌で感じる絶好の機会に触れています。全体としては、これまでとは違うスピード感と力強さのあるダンスに転じてきているように思います。パンデミックや戦争の苦難を乗り越えていく人間の「魂の強さ」が、その根底にあるような気がしています。
実際に、次の時代を担う若い世代が非常なレベルアップを見せており、特に21歳以下のユース、ジュニア世代のダンサーたちのテクニックレベルが、半端なく上がっています。しかも、ライバル間の競争がさらなる相乗効果となっているのか、若く弾けるような躍動感とパワー、スピード、そして美しさを持って踊るダンスには目を見張るものがあります。日本でもその傾向は著しいとは思いますが、これは世界的な流れとして現に存在する現象なのです。
彼らに追いつけとばかりに、さらに14歳~15歳あたりのダンサーたちもその流れにうまく乗っています。そして、その勢いを最も顕著に見せているのが中国の選手たちです。かつての英国やイタリアが素晴らしい選手を次々に輩出した時期があったように、今は中国がその役割を演じているかのようです。
ウクライナの選手たちも素晴らしいダンスを披露し、さらに磨きをかけています。昨年2022年のUK戦でも素晴らしい勢いのあるダンスを見せていたウクライナの選手たち。その大会の直後にロシアの侵攻が始まり、とんでもない状況に陥りました。選手の中には隣国に避難した者も多いようで、「避難先でなんとかダンスを続けてきた」との話も聞きます。今年のUK選手権でも、そんな状況にあった選手たちも出場してきます。その真剣度の高さを持った選手たちは、きっとこれまでとは違う「魂」の籠ったダンスを見せてくれるのではないでしょうか。
とても残念なことですが、現状、ロシアの選手たちは英国入国のビザを取得することができませんから、英国に来ることはできません。しかし、戦争勃発以前にロシア国外で活動していた現役のダンサーたちは、英国やEU諸国などへの入国ビザを取得しているため、そのビザで英国に来てUK選手権にも出場することができます。ただ、出場の際は主催者側の配慮もあり、感情的にならないためにも最近では国名をアナウンスしない流れになっています。
日本からも今回はかなりの数のカップルがUK戦にチャレンジします。3年ぶりにあのフロアで踊る選手も、今回初めてチャレンジする選手も多く、かなりエキサイティングな競技会になることでしょう。世界のレベルの高さやトレンドをしっかりと肌で感じ、「新たな始まり」の流れに乗るべく、自らのレベルアップへの大いなるきっかけにしていただきたいと思います。
英国やヨーロッパ諸国がコロナに対する規制をいち早く解いたのに対し、日本は長らくソーシャルディスタンスやマスク着用などを含めて自粛生活が余儀なくされてきました。が、アジア諸国同様、規制はかなり緩和され、経済活動もかつてのような賑わいも見せ始めています。そして今年、2023年は「新たな始まり」です。コロナによるこの3年間の鬱憤を晴らすべく、そして世界に大きな影響を及ぼしている戦争による苦難を乗り越えて行くべく、我々ダンス人も「魂の強さ」を持って、大いに積極的に、そして勢いのある1年にしようではありませんか。
(月刊ダンスビュウ2023年3月号掲載)