こんな時代だからこそ社交ダンス!
コロナ禍の日々が未だ続く日本。それが人の心を狂わせているのか、元首相が参院選投票直前の遊説中に凶弾に倒れるという前代未聞の大事件が起きてしまいました。民主主義の根幹を揺るがす事態として社会全体が揺れ動いている感じです。また先日、大阪でもダンスパーティ用のヘアメイクをした女性が刺され死亡したという恐ろしい事件が起きました。世界を見ても、未だ続くロシア、ウクライナ問題。双方で多くの方が亡くなり、またアメリカの学校でも銃の乱射殺人事件が起きたばかり。世界的に、私たち人類が精神的に不安定な時期に入ってしまったのは否めない事実なのでしょう。
しかし、私は思います。こんな時こそ「社交ダンス」なのです! 人間同士の距離感、位置関係、バランス、リズムあるムーブメントが織りなすカップルのハーモニー、音楽とのハーモニーを楽しむもので、それはある意味、人間関係を良好に保つための「普遍の真理」です。私たちが心地良いと感じるのは「マナー」であり、そのマナーを発展させたスタイルこそ社交ダンスないのです。こんな気持ちが荒れた時代だからこそ、最も大事なものが何なのかを、社交ダンスは教えてくれるのではないでしょうか。
「ダンスが世界を救う!」――世界共通の言語はこのダンス以外に存在しません。ダンスを愛し、その素晴らしさを伝える仕事に従事していることを誇りに思い、これまで以上にこの素晴らしさをアピールし続けようではありませんか!
第7波の襲来が囁かれてはいますが、種々のスポーツ競技同様、競技ダンスの世界でも各地で競技会が開催されるようになりました。そんな中、6月18日・19日の2日間にわたり「日本インターナショナルダンス選手権大会」が3年ぶりに日本武道館で開催されました。今大会では新たな試みとして、初日はアマプロ選手権、2日目に従来のプロとアマチュアの選手権を1日で開催するという、中身が凝縮された大会となりました。
初日のアマプロ競技会では、武道館で踊れるという特別感を求めて延べ800組を超えるエントリーで大盛況。日頃のレッスンの成果を発揮すべく、朝早くから熱戦が繰り広げられました。ジャッジにはWDC会長のドニー・バーンズMBE氏、副会長のスティーブ・パウエル氏、台湾からトニー・シュー氏、日本からはJBDF副会長の内田芳昭氏と私、田中英和の5名が担当させていただきました。
2日目は、プロスタンダード部門において先日ブラックプールで引退を予告したアンドレア&サラが参戦。さすが世界チャンピオンのレベルを見せつけ、観客から多くの拍手を受けました。そして、彼らに食らいつく日本のファイナリストたちも、刺激を受けて、素晴らしいダンスを繰り広げてくれました。準優勝は橋本剛・恩田恵子組、3位の表彰台へは廣島悠仁・石渡ありさ組が続き、今回初めてファイナリストとなった金野哲也・井之口香織組もスタイリッシュでキレの良いダンスを披露していました。
プロラテン部門には海外からのエントリーはなく、日本勢による白熱したバトルが展開されました。見事優勝の栄冠を手にしたのは野村直人・山﨑かりん組。3月のスーパージャパンカップで初優勝した森田銀河・小和田愛子組を制しての堂々の初優勝。3位表彰台には正谷恒揮・齋藤愛組が上がりました。特筆すべきは若手NO.1の八谷和樹・皆川円組が躍動感溢れる踊りでファイナル5位に。そして海外留学で実力をアップさせた三室雄司・武藤慶子組が初ファイナルを果たしました。アマチュア部門でも若い素晴らしい選手が多く活躍しており、今後さらにレベルアップしていくことを予感させました。この秋シーズンのビッグイベントがまた楽しみになってきました。
そして、やはり日本武道館はダンス界にとって「聖地」なんだと改めて思い知った日本インター。私は今回、プレミアムデモに山田尚子様のパートナーとして武道館のフロアで踊る機会をいただきました。1998年にアデールと引退デモを踊らせていただいて以来、24年ぶりのフロアでした。フロア上から1階席、2階席へと視線を上げると、現役時代ここで戦ったそのままの風景が広がり、その瞬間、ダンサーとしてそこに立てる快感を思い出したのです。1曲であっても、踊れる幸せに浸らせていただいたことに改めて感謝です。この頁をお借りして山田様、そして主催のJBDFに感謝の意を表したいと思います。ありがとうございました。
(月刊ダンスビュウ2022年9月号掲載)