ブラックプールダンスフェスティバル
さらに問題が深刻化しているような感じがします。そうです、今回の「ブラックプールダンスフェスティバル」開催にまつわる多くの問題点についてです。それは前号(2022年7月号)でもお伝えした、多くのレジェンド、そしてトップダンサーたちが大会への不参加、ボイコットした問題です。彼らは大会が終わったこのタイミングで主催者側に問題とされる項目を質問状として提出し、多くの問題点が解決される方策を見出そうとしています。
ところが問題が深刻化していると感じるのは、開催前の段階で問題とされたことに加えて、フェスティバル期間中のワールドコングレスで行なわれた、あるレジェンドのレクチャーの内容が大きな問題となっているのです。そのシーンはSNS上で拡散され、英語がはっきり聞き取れないにしても、そのシーンを見ると確かに不快な感覚を覚えます。ネイティブスピーカーの方々にとっては、発言された言葉のニュアンスが感情も含めてより鮮明に具体的にわかるのですから、その嫌悪感は想像に難くありません。
世界的なダンスの流行を踏まえ、近い将来のダンス競技としてのフェスティバルがどう発展していくかを伝えようとしたのかもしれませんが、何も「そんな態度でそんなこと言う必要もないでしょ」と思ってしまうものも含まれています。
現BDC(ブリティッシュダンスカウンシル)会長のマーカス・ヒルトンMBE氏も、フェスティバルを公認している組織の代表としても、そして一個人としても、この人物の公の場での発言に対して「到底受け入れることはできない」との表明をしています。大会主催者からも何らかの説明があろうかと思いますが、それがないのであれば、この問題解決に向けた動きがさらに困難な状況に陥ってしまうのではないかと危惧するものです。
フェスティバルに不参加の意を唱えるというのは、尋常なことではありません。レジェンドたちもあのフロアで選手として必死に踊り、その実績を築き上げていった者ばかりです。将来への展望の差異がレジェンド同士の軋轢や歪みを生み、このような事態になってしまったのなら非常に悲しいことです。守るだけでなく、時代の流れに則った将来への展望も大事なこと。ただそれがあまりにも性急な変革であったり、嫌悪感を与えてしまうような発言、個人を攻撃するような態度は反発を呼び起こすだけのこと。何とか穏健に解決の落とし所が見出されることを祈りたいものです。
全ての内容を把握しているわけもありませんし、不確かな側面もありますから、この話はもうこれでお終いにしましょう。そうです、大会に出場する選手たちには、そのようなことは関係のないことなのですから。自らの人生をかけて競技の世界に挑み、一度フロアに立てば、そのカップルの全てを出し切って踊るだけのことなのです。
ブラックプールウィンターガーデンズのエンプレスボールルームは「マジカルフロア~魔法のフロア」と表現される会場です。あのフロアに競技選手として一度でも立ったことのある者なら、その意味は皆わかって
いることと思います。無我夢中で、フルパワーを出し切って踊れるフロアなのです。事実、出場選手は政治に関係なくこのマジカルフロアで素晴らしいダンスバトルを繰り広げてくれました。そして今回は、何と言ってもプロボールルームで新チャンピオンが誕生したことを紹介したいと思います。
現チャンピオンのアンドレア&サラ組がチームマッチでの引退の意向を発表し、UK選手権制覇のドーメン&ナターシャ組も出場を見送ったことで、新チャンピオンの誕生に注目が集まりました。この部門を制覇したのはヴァレリオ&アンナ組。何とこのカップルは、カップデビュー戦の「全英選手権」でビッグタイトル初制覇という偉業を成し遂げたのです! ちなみにパートナーのアンナはアルーナス・ビゾーカスの名パートナー、カチューシャの妹。しかし、素晴らしいダンサー同士であっても、UK戦で3番手につけていたパワフルなドゥサン&ヴァレリア組を抑えての優勝です。そのプレッシャーが大きかったことは、表彰式での彼の一瞬の涙が物語っていました。
ラテンでは先の「世界選手権」で初優勝をしたドーリン&マリーナ組がこの大会も制し、グレートチャンピオンにまた一歩近づいたようです。日本勢で今回最も躍進を見せてくれたのが野村直人・山崎かりん組。ライジングラテンで4位入賞を果たし、本戦でも5種目とも準々決勝に駒を進めるなど、世界が認めるレベルの壁を破ったと判断できます。更にインプルーブが続けば、相当に面白い展開が見られるのではないでしょうか。大いに頑張ってほしいと思います。
(月刊ダンスビュウ2022年8月号掲載)