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田中英和先生のワールドダンス

コラム&本誌企画

「競争」と「競技」

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インターネット時代にある今、Facebookには毎日のようにYou Tubeなどで「今のダンス」が投稿され続けています。素晴らしい環境にあることは言うまでもありません。日々進化するダンスを自宅にいながらにして目の当たりにできるのですから。

と同時に、私たちにダンスの何たるかを教え込んだビル&ボビー・アービン先生、リチャード&ジャネット・グリーブ先生、ピーター・エグルトン&ブレンダ先生、アンソニー&フェイ・ハーレー先生などなど、かつてのマエストロ(巨匠)たちの映像も、これも毎日のようにインターネットで配信されているのも事実です。

スポーティでアクロバティックなアクション、パワーとスピード、動と静の明確なコントラストが「今」で、クオリティの高い重厚で滑らかなムーブメント、エレガントなスタイルに、リード&フォローのハーモニーが見えるのが「以前」のスタイル、といった表現の違いがあるといえば、その通りでしょう。

しかし私たちは、今と以前の双方に魅力を感じています。将来への展望や方向性、そしてダンスの根底にある普遍のもの、両方に魅力を感じているからに他ありません。今も昔も、そして将来も皆が求めているものに「共通項」があるからだと私は感じます。

その共通項とは「ボールルームダンスの真理」というものです。時代が変わってもそこに存在する、人を魅了してやまない「本当のスタイル」があるのです。それに引き込まれた人間が何を隠そう、私たち自身であり、これからダンスにハマっていくであろうダンスの仲間なのです。

人間同士がダンスフロアの上で音楽を共有し、地球上における様々な力学を本能的に、または学問的に利用し、パワフルに、繊細に、ダイナミックに、かつ合理的に生き生きと踊るスタイルには、昔も今も、そして将来も何ら変わることはないのです。人間同士がなせる技の合理性、それを「普遍のもの」というのです。

審査方法の違いがあって、それがオリンピックに向かおうが、時としてアクロバティックな瞬間があろうと、全英選手権を最高峰とするスタイルであろうと、魅力ある人間同士が魅力あるスタイルで、魅力あるムーブメントを素晴らしいパワーとスピードで空間に音を放出した瞬間、人は感動を覚え、本物は光り輝き、その魅力に人々はハマり込むのです。

要するに、いかなるスタイルであろうと、カップルが普遍に存在する「本当のもの」をフロア上で得ることが最終目的、ゴールであると言えるのです。しかしながら今現在、いかなるスタイルでのダンサーであろうと、ボールルームダンスという山のてっぺんに登ったと言えるダンサーはいないように感じます。

だからこそ、私はある意味、今は非常に危険な時代に来ていると少々心配しています。それは情報過多による混乱が背景にあるものです。フロア上で繰り広げられているダンスは、今や「競争」。その競争に勝つべく、いや勝たせるべく、若手の分析能力豊かな指導者たちは、いろいろなダンスのスタイルがある今、最も早く成功を収める「方法」「アイデア」を教え込もうとしているように思えてなりません。

しかし、踊り手が自身の経験や知識、感性やカップルバランスから生まれる個性などで勝負に挑むのなら良いのですが、最近の若き指導者たちは自らマエストロの域に成長すべく、自身の理想を追うことによる「競争」の中で、彼らの強い意志でダンサーたちにコピーを強いるようになっているのであるなら、それは踊る側の意思や自由ではなくなってしまます。

指導者の責任は自身が理想とするコピー、クローンを作ることではなく、あくまで個々の人間に対する正しい情報の提供と、人間のすることの「自然なアプローチ」への方向修正、個性を伸ばすことへの想像力を鼓舞すること。それが「競技」として我々を魅了するものであって、指導者たちが自分たちの名声を得るがための「競争」であってはならないのは当たり前のことです。他人によって作られたダンスのスタイルを、私は「不自然」と断じます。

見よう見まねから全ては始まります。だからこそ理論を学び、工夫を重ね、間違いや思い込みを修正し、繰り返していくことが大事になるのです。そして自分自身のダンスレベルの積み上げの中で、パートナーシップにおける化学反応が始まるのです。そこに正論からくる個性が表れ、音楽表現に繋がり、1プラス1が無限の答えを出すようになる時に、ダンスは感動のレベルに昇華していくのです。

今月末から6月3日までの間、英国ブラックプールで繰り広げられる「ブラックプールダンスフェスティバル」。昔ながらのBDC(英国ダンス議会)の競技ルール(使用不可のフィガーなど)はありますが、ボールルームダンスを確立したイギリスにおいて開催される歴史あるこの大会は、世界中のすべてのダンサーが制限なく出場できる世界最高峰の競技会なのです。この大会の最も素晴らしいことは、大会期間中、毎夜毎夜オーケストラとダンサーたちと観客席と、そして審査員のすべて一体となって、私たちの追い求めるダンスに浸れるところなのです。

さあ、今年の世界最高峰のこの大会ではどんなダンスが展開され、どんな感動のドラマが待ち受けているのでしょう。ダンサーの自由な意思と腹の底から溢れ出すエネルギーで、最高の「競技」を繰り広げ、我々を感動の世界に引きずり込んで欲しいものです!

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プロフィール

  • 田中 英和

    生年月日:8月9日
    出身:広島県広島市出身
    経歴:1997年2月にアデール・プレストン選手とカップルを組み、5月の全英選手権で日本選手初の第3位表彰台に輝く。「ヒデ&アデール」の愛称で国内外の大会で活躍し、翌98年の全英選手権5位入賞を最後に現役を引退。以降、審査員、コーチャーとして後進の育成にあたっている。また、本誌でも、7年にわたって連載レッスン「ナチュラル・ダンシング」シリーズを執筆し、大好評を博した。
    田中英和ダンスワールド

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