社交ダンスを真に楽しむために
コロナ収束を祈りながら始まった令和4年も早1カ月が経ちます。まあ、なんと時間の過ぎるのが早いことか。「少年老いやすく学なり難し。一瞬の光陰軽んずべからず」とは何世紀も前の偉人の言葉です。若いうちから寸暇を惜しんで勉学に励み、勤勉に働くのは向上心を持って生きたるめの素晴らしい諺です。札幌農学校初代教頭であったクラーク博士の「青年よ、大志を抱け」も、若人の未来に向かっての意気揚々とした生き様を示唆する良い言葉だと思います。
一方で、長年生きているとついつい「言うは易く行なうは難し」となるのもまた事実。現在、オミクロン株の蔓延で、この先どう展開していくのか全く先が読めない状況ですが、まずは健康であり、その上で時間を有効に使い、少しずつでも発展性のある、実りある2022年にしたいものです。
そんな中、英国では1月12日(水)、ロンドン郊外のエプソム競馬場のオークホールという素晴らしい会場で、BDF主催の「スターボール」が開催されました。欧米諸国の選手にとっては入国や帰国時の制限がアジア諸国に比べて厳格ではなく、出入国はそれほど問題ではないのです。特にプロ、アマ共にラテン部門で多くの欧米からのエントリーがあり、レベルの高い競技が繰り広げられました。
日本からも数組のエントリーがありましたが、平均的に世界のトップクラスと互角に戦えるにはまだまだ不十分と言わざるを得ません。メインイベント前の前哨戦の大会であっても、ファイナルへの壁をぶち破るにはまだ力不足の感は否めません。しかし、世界の強豪に揉まれて、世界との違いを肌で感じる経験は、自分自身のこれまでのアプローチの評価と修正、そして強化していく素晴らしいチャンスなのです。「当たって砕けろ」ではなく、「見て、感じて、聞いて、知って、トライして、修正して、また繰り返す」という非常に地道なことを繰り返す以外に上達の道はないのですから、現在の自身のレベルを素直に受け入れて、このチャンスを是非とも今後に生かしてもらいたいものです。
その世界のレベルで活躍するダンサーたちを見ていると、空間を支配するカリスマ性、一つひとつのフィガーの息を呑む展開、感動の音楽性、存在感は、フロアに立った瞬間から明らかに違います。私はその「フロアに立つ」ということにいかにこだわるかが、私たちのダンスをインプルーブ(発展)させるキーワードになるのではないかと考えます。
普段と同じように何となく立っているのではなく、特別なレベルで踊るために必要なエネルギーを生み出すためと考えると、その立ち方に相当な美学やこだわりが必要であるのは当然のことです。
ズバリ、その答えをお教えしましょう。「フロアに立つ」とは、フロアに圧を加えたその反発のエネルギーを吸い上げ、そのエネルギーがボディの躍動やムーブメントのボリュームとなり、最後には美しくも力強く輝きを放つレベルに到達することを言うのです。その躍動がビッグムーブメントであろうと、微細な振動であろうと、トリッキーなアクションであろうと、それらは全て「フロアに立つ」というシンプルな言葉で表される動作が、特別なエネルギーとなり感動のレベルへと展開しているのです。
自分の身体が使える自由の程度や強さなどは、皆それぞれに差はあります。が、その差があったとしても、その足に立ち、その足でフロアを使い、その時間がエネルギーを生み、魅力的な踊れる身体が作られていく過程は、ダンスを志すものであるなら皆同じことです。全く一朝一夕にはできない根気のいることではありますが、それぞれが目指すレベルに近づいていく努力は踊れる自由を実感することであり、楽しみでもあります。インプルーブしている証は、まさにそれを実感する瞬間なのではないでしょうか。
日本の文化に定着した社交ダンスも、マナーなどの問題も含めてもっとレベルアップすべき側面が多々あります。日本の社交ダンス文化がもっとレベルアップし、さらに充実したダンスライフを満喫するためにも、そして世界に通用するダンサーを輩出し続ける環境になるためにも、足型を覚えただけのダンスではなく、男女それぞれの基本理論を理解し、音楽に則り、立ってる足でしっかりフロアを使って踊る「本物のダンス」を目指して行こうではありませんか。
2022年が、皆様にとりまして実りある充実の年になりますように!