第5波を乗り越えて
東京オリンピック・パラリンピックの開催で、感染爆発という最悪のシナリオが心配されましたが、嬉しいことに新規感染者数が劇的に減少し始め、9月末をもって全国的に緊急事態宣言が解除されました。これで一気にコロナ前と同じ、とは行きませんが、第5波と呼ばれた危機はなんとか乗り切ったようです。
世界的に見ても、欧米では7月の後半から生活はほぼ平常に戻っています。英国では、空港や公共の交通機関ではマスク着用が義務付けられ、空港では厳格にチェックされていますが、電車やバスなどでは乗客の半数くらいは未着用。レストランは通常営業で、マスク着用は店の判断に任せてあり、アルコールの提供になんの制約もありません。しかも、NHSという国の保健省からコロナのセルフチェックキットが無料で配布されており、随時家庭で陰性か陽性かのチェックをすることができますから、もし陽性の場合も即、自宅待機となりますから、市中感染に繋がりにくく、経済を回していくことに役立っているように思えます。
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このような状況の中、9月末には英国ロンドンで「インターナショナル選手権」が開催されました。観客はマスク着用の義務も入場者数の制限も、座席のソーシャルディスタンスもなく、会場のロイヤルアルバートホールには地元英国を始め欧米のトップダンサーたちの素晴らしいダンスバトルを見ようと、満席に近い観客で埋め尽くされました。
コロナ禍の前とはファイナリストのメンバーもニューフェイスが台頭。勝負の行方が最後の最後までわからないというとても新鮮な競技会の魅力に加え、1カ月前の「ブラックプールダンスフェスティバル」に続いてのこの大会ですから、選手もレッスンや練習会で実践を積んできており、レベルもパワーもさらにアップ。今や海外では競技会でマスクを着用することはなく、顔の表情も豊かに、さらに進化したダンスをさらに魅力あるものに魅せてくれました。
日本からもラテンで野村直人・山崎かりん組、スタンダードで廣島悠仁・石渡ありさ組、福田裕一・エリザベス組、そして大西 亘・ちかる組が予選会を見事クリアし、念願のロイヤルアルバートホールでの本選に進出。果敢にチャレンジしていました。残念ながらあと1歩で次のベスト30に進むことはできませんでしたが、こんな時期にあえて世界に挑戦したそのポジティブな姿勢は、近い将来への貴重な体験となることでしょう。
雰囲気最高のロイヤルアルバートホールで、ロス・ミッチェル率いる生バンドの迫力ある演奏にダンサー、会場が一体となり、プロ、アマ各セクションで素晴らしいバトルが繰り広げられました。同大会の結果は本誌46頁のニュース欄に掲載されていますので、参照ください。
英国入国に関しては、10月4日からは陰性証明とワクチン接種済証明を持っていれば入国後の隔離の必要がなくなりました。日本でも英国などから帰入国の場合、旅行前の陰性証明とワクチン接種済証明で、隔離期間が4日短縮され10日間になる措置も始まっています。さらに世界的にワクチン接種が進み、経口薬が承認されることで、本当に近い将来、新型コロナが恐るに足りない風邪レベルになっていくことも期待されます。今現在がコロナに打ち勝つ方向性に向かっているのであれば、年明け1月の「UKダンス選手権」では日本や中国、台湾や韓国などアジアの選手がチャレンジできるチャンスも大きくなるでしょう。
ただ一つ、残念なニュースも飛びこんできました。それはブラックプールエンターテインメントカンパニーの最高責任者であるマイケル・ウィリアムズ氏の公式発表。14年間、「ブラックプールダンスフェスティバル」のチェアマンを務めたマーカス・ヒルトン MBE氏との話し合いで、この11月にブラックプールで開催予定の「全英ナショナルダンス選手権」以降は、新たなチェアマンを招待することに決定したというものです。このタイミングでの発表に、世界の面々から「なぜ?」「残念!」の声が上がっています。このような決定がなされた背景を詮索することは簡単なことですが、根拠が明確でない現段階ではこの事実をシェアするにとどめておかなければなりません。新たなチェアマンが「ブラックプール」を仕切っていくことになりますが、最もフェアな誰もが憧れる世界最高峰の大会として、その伝統が引き継がれていくことを願うのみです。