ブラックプールダンスフェスティバル2021
この夏、2年ぶりに「ブラックプールダンスフェスティバル(全英選手権)」が開催されました。英国のロックダウンも今年の3月から段階的に解除され、7月19日を持って全ての規制が解かれたことを受け、オーガナイザーは8月下旬から9月上旬での開催を決定したのです。さらに英国政府が「EU諸国とアメリカからの旅行者は、2度のワクチン接種済みと陰性証明、入国後2日目のPCR検査を条件に、入国後の隔離なし」を決定したことにより、ヨーロッパ各国とアメリカからの選手は、コロナ禍前と同様の旅行ができることになり、大会への参加意欲に弾みをつけたのは事実です。
一方、プロセクションでエントリーの半数以上を占めていた日本、中国、台湾、韓国の東アジアからの選手はほとんどなく、唯一あったのが日本からの参加。それもプロスタンダード3組、プロラテン1組、シニア50歳以上スタンダード1組、そしてアメリカンスムース1組の合計6組に止まりました。
その理由は、日本からの旅行者は2度のワクチン接種を終えていても、英国政府の認める「ワクチン接種プログラム」に沿っていないことで、10日間の自主隔離が求められているからです。加えて、帰国時にも厚労省の指示通り14日間の隔離生活を余儀なくされますから、例年通りに渡英するわけにはいきません。聞くところによると、中国などではもっと厳しい措置が取られているそうで、アジアの国々からの挑戦が本格化するにはまだ時間がかかりそうです。
世界はまだまだパンデミックの状況の中にあり、それゆえに各セクションのエントリー数は例年の半数以下。観客席もガラ空き状態で、今回はエンプレスボールルームオーケストラの生演奏もなく、音楽と会場、ダンスが一体となったあの「全英」とは全く違う寂しいものであったことは否定しようがありません。
私は大会期間中、隔離生活のためにロンドンにおり、大会の模様は連日インターネットで観戦していました。しかし競技が始まり、ラウンドが進むにつれて、大会の寂しさを感じることもなく、むしろコロナ禍以前よりも、より洗練されたハイレベルなダンスの数々を見ることに大興奮していました。
コロナ禍で制限された生活の中でも、世界のレベルは明らかに上がっているのです。アマチュアもプロも、各セクションの最終予選あたりから相当にレベルの高いダンスバトルが繰り広げられ、オーディエンスがやんやの大喝采を送っている模様も映し出されていました。プロラテンに至っては第1種目のチャチャチャの途中からスタンディングオベーションが沸き起こっていました。
そのプロラテンではトロールス・バーガー&イーナとドリン・フレコータヌ&マリーナの2組がデッドヒートを繰り広げ、結果はS、R、Jの3種目を制したアメリカ籍で出場のバーガー組が初優勝。CとPを制したフレコータヌ組(香港籍)が準優勝。以下、3位ランジェラ組、4位ベロルコフ組と続きました。日本から唯一挑戦した野村直人・山崎かりん組は残念ながら3次予選で、ベスト24の最終予選に届かずでした。
プロボールルームではチャンプ、ギジャレリ組が「おめでた」で欠場、ファン組は米国で引退を表明し、コラントーニ組は大会前に解消を発表。注目は新チャンプの誕生と新ファイナリストの顔ぶれで、ここでもまたレベルの高い僅差のバトルが繰り広げられました。
優勝はドーメン・クラペツ&ナターシャが念願の初制覇。ドイツ初の全英チャンピオンになりました。2位は同点でロシア籍で出場のドラゴビッチ組とロシアのゼリアニン組が分け、4位にポルタネンコ組と続きました。プロライジングで3位入賞を果たした廣島悠仁・石渡ありさ組は、本戦でもワルツとクイックステップで最終予選に食い込みました。
アマシニア50歳以上のセクションでは、過去2度ファイナリストに輝いた松村健樹・栄子組でしたが、準決勝で足が攣るハプニングに見舞われ、残念ながらファイナルには進めませんでした。こんなところにも隔離生活による欧米選手とのハンディがあったのかもしれません。
9月末には英国3大大会の「インターナショナル選手権」がロンドンで開催されます。ブラックプールで踊った廣島悠仁組、福田裕一組も英国に残り研鑽を積んでおり、日本からも数組がエントリーしていると聞きます。徐々にですが、世界の舞台も復活傾向にあります。感染予防に十分気をつけながら、ぜひ世界の大舞台で頑張っていただきたいものです。