「女性ダンサーへ その2《ポイズ》」
素晴らしいダンサーになるために絶対必要条件とは、要するに「何でもできる身体を持つ」ことです。踊る相手のホールドに合わせるだけや腕力などで運ばれたりするようでは、女性自身が上達することもカップルとしての成功も望めないのです。男性のサポートによる女性のリアクションが、カップルとしてのプラスアルファのパワーやスピード、存在感を生み出し、そこからくる「ゆとり」が最終的なゴールである「自由」となるのですから、男女それぞれ「焦らず、サボらず」不断の努力が必要になるわけです。
「何でもできる身体」とはもちろんある意味、「完成したときの状態」を言うのですが、その完成形も、見た目には何ら特別なものではなく、客観的には全く「自然なスタイル」なのです。筋肉による造形美の側面もあるでしょうが、あくまで自然な美しい骨格のバランスであり、音楽のリズムやテンポに則った柔軟な筋肉の躍動の最終形であるべきです。
踊れる身体を作っていくための段階も理解しておく必要があります。ビギナークラスのレッスンの常套句に「お腹を引きこみ肩を下ろし、首を伸ばす」というものがあります。これこそが客観的な自然なスタイルなのですが、この状態こそが、算盤で言う「ご破算で願いましては」で、まさに今から計算を始めようとする状態です。この姿勢を頑なに守るのではなく、そこからポイズと言われる踊るための姿勢、形、スタイルに展開して行くための基準だと理解すべきです。
スタンダードの場合、女性のポイズは男性のホールドやライズ&フォール、シェイプの変化にフォローするために取られる形のこと。そのために男性の立つ位置より半身ほどズレて立ち、右手は男性の左手と、左アームは男性の右アームの上に置き、左手は左手首が浮かないように男性の右肩上腕の筋肉の細くなるところあたりを親指と中指で挟むような感じで置きます。男性の右アームにフォローするために、女性のボディは「左へ60度」を目安に傾けながら、「肩や両肘が水平」になるように「左の膝を緩める」などして調整。立ち位置が半分ずれていることから、女性のお腹あたりの中心は男性の右のスラックスの折り目あたりと向き合っていることになります。これで5つのコンタクトのうち、右手、左アーム、ボディの中心あたりの3点が、女性が美しく動きやすいバランスでいるために意識しておくポイントとなります。
この位置で男性からのフットプレッシャーによるトーンの変化により、男性は右腰の高さが変わり、右スパイラルのエネルギーがどんどんと力強く展開していきます。この展開により、女性も身体の中心から左肩にかけてのカーブしたラインが生まれ、同時にフットプレッシャーが強くなり、女性のくるぶしの上あたりの足首がとても強いものになります。
上体では、男女の頭の位置がお互いに左上へ伸びていくような感覚が生まれ、男女の右頬が向き合う範囲で大きく美しいトップラインが形成されます。右頬と右頬のちょうど中間に、斜めに横切る架空の境界線を意識することで、さらにカップルの広がりと美しさ、ホールドの強さを印象付けることができます。
この展開により、女性はライズの時のブラッシュの動作やPPに開くスイベルの動作、アウトサイドパートナーへの前進ステップも効果的にできるようになります。すなわち、女性のポイズは、男性の右アーム、右手のスピードや右腰の高さの変化、男性の背中の上方の傾きなどに的確に対応できるシェイプなのです。
さて、2年ぶりとなった日本インターナショナル選手権が、6月12・13日、会場を「飛天」に移し開催されました。そしてこの大会では、まさに私が書き進めている「女性ダンサーの活躍」が、勝負の大きなウェイトを占めていたように思えます。優勝の栄誉を手にしたプロSの橋本剛・恩田恵子組、プロLの増田大介・塚田真美組。そしてアマS・Lを制し、プロ転向を表明した八谷和樹・皆川円組を筆頭に、激戦を制したファイナリストたちは、やはりカップルとしての一体感、ハーモニーが素晴らしいと感じました。勝負のポイントは「力強くも美しい男性のバックラインと女性のリアクションの美しさ」。決め手は、素晴らしい男性からのリードであり、それを受けての女性のリアクションであり、最後は「女性勝負!」。それこそ女性ダンサー冥利に尽きる部分だったと思います。
さあ、次回も「女性ダンサーへ」シリーズは続きます。次号は「女性ダンサーのリアクションとムーブメント」のお話へ展開していきます。