「女性ダンサーへ その1」
今回は「女性のダンス」に関して話を展開していこうと思います。なぜなら、私は日本の競技レベル向上には、男性ダンサー以上に女性ダンサーの更なる上達が不可欠であると信じているからです。日本人女性のダンスのレベルは、バレエにしてもヒップホップなどにしても、世界トップクラスにあると言われています。素晴らしい日本人女性ダンサーが数多く存在するのです。ところが、私たちボールルームダンスの世界には、世界から素晴らしいと評価される女性ダンサーはそれほど多くないのが現実です。
ボールルームダンスは、他のダンスにはないカップルとしての一体感という評価があるためなのか、リード&フォローという社交ダンスのスタイルが全エネルギーを振り絞って踊ることを制限させるのか、特にスタンダードを踊る女性ダンサーは、高評価のレベルになかなか到達しにくいと言えるかもしれません。
ところが世界には生き生きとパワフルに、しかも美しく踊る女性ダンサーが数多くいます。単なる肉体的構造の違いからくるものなのか、文化の違いからなのか、日常生活における男女間の触れ合い感の違いなのか、世界の男性ダンサーが格段に素晴らしいのか、様々な理由が考えられるとは思いますが、これらは全て「言い訳」になってしまいます。なぜなら過去には、日本にも素晴らしい女性ダンサーが数多く存在していたからです。故桝岡栄子先生、故田中節子先生、篠田雅子先生、石原佳代子先生、山本千恵子先生、毛塚雅子先生、鳥居瑶子先生をはじめ、世界に名を轟かせた日本人女性ダンサーは数多くいらっしゃるのです。
素晴らしい女性ダンサーは男性ダンサーをより上手にし、上手な男性ダンサーは女性ダンサーをより魅力的なものにします。プラスαの相乗効果を持って世界に通用するレベルに到達するのです。ダンスの何たるかを理解し、繰り返し練習した結果、カリスマ的存在になられたのは自明の理。そしてカリスマレベルに到達したダンサーの言葉や理論やパフォーマンスは、決して流行というものに押し流されるものではありません。
サクセスストーリーの背後には、本人にしかわからない苦労や努力があったと思いますが、世界が認めるレベルに到達するためには、「女性の下地作り」が絶対に必要だと私は思います。一朝一夕には成し得ることのできない、世界が認めるレベルの「何でもできる踊れる身体」を獲得するために費やした時間と、それをパワーアップしていった時間は、一体どれほどのものであったことでしょう。
上達の基本はやはり、フロアの上に立って、「自分の足で歩くことに始まり、そこに終わる」ものです。後退ウォークに前進ウォーク、CBMPでのウォーク、PPやフォールアウェイでのウォーク、ナチュラルスピンターンの練習、フェザーステップからリバースターン、後退ウォークからのヒールターンやプレッシングライズをしながらのブラッシュの動作、ホバークロスとフェザーの繰り返し練習やシャッセを数回した後にフェザーに入る練習、ヒールターンからダブルリバーススピン後半の回転継続で足を交差させる練習など、自分自身でできる練習パターンはいくらでもあります。ハイレベルなダンサーになったとしても、この基本的な練習は、その日の状態を確認するルーティンでもあるのです。
これらの練習では筋肉に頼った急な加減速をするのではなく、ムラのないイーブンなゆっくり目のスピードで実行すること、そしてバランスとシェイプが保たれていることがポイントになります。決して固めるのではなく、肩周りも柔らかく動かせる状態でなければなりません。女性ダンサーは身体の中心線から均等な距離で、水平に保たれた両肘の間にいるときに、踊れるためのバランスを感じるものです。どんな動作をしても、いつも自分の両肘の高さとそこにバランスがあることを大事にしなければなりません。
「こんなことを繰り返して、本当に上達するの?」って疑う人は多いと思います。しかし続けていくうちに、同じ練習も習得のレベルが上がるにつれて、正確さ、ボディトーンやフットプレッシャーなどのエネルギーレベルは相当高くなってくるのです。イーブンな動きの中にも大胆さが芽生え始めたら、それはカップルとしてのプラスαの期待が大になった証でもあります。それが「単純動作の繰り返しが上達への一番の近道」を実感する瞬間でもあるのです。<次号に続く>