★コロナ禍で開催された全国競技会から見えてきたもの
世界的にコロナワクチンの接種が進められていることは、近い将来の収束に向かっていることを期待させますが、副反応の心配などの理由で接種計画に遅れが出ている話や、地球規模での集団免疫獲得まで相当な年数がかかるのではないかと不安視する声も聞かれます。また日本では、第3波の新規感染者数が下げ止まっている現状や、第4波の襲来を恐れる専門家の警鐘も気になるところです。
そんな中ではありますが、国内では2月下旬から3月にかけて「JDC全日本プロ選手権」「JBDFスーパージャパンカップ」「JCFユニバーサルグランプリ」と立て続けに全国レベルの競技大会が開催されました。スポーツ庁の指針に従って、マスク着用、検温や手指の消毒、健康チェックシートの提出、観客席のソーシャルディスタンシング、拍手のみの応援を徹底することで、競技会の開催が可能となったのです。従来と同じ規模での開催とはいきませんが、1年ぶりの全国レベルの競技会に、選手諸君は、観客の皆さんの応援を受けて踊れる幸せを、改めて感じ取ったのではないでしょうか。
思い起こせば昨年のスーパージャパンカップ。ウィルス拡散の恐怖から、大会の3日前に突如中止となりました。それ以降、国内外の競技会は全て延期または中止に。選手としてのモチベーションを維持することが非常に困難になってしまったのです。濃厚接触という言葉が即、社交ダンスを連想させたこともあり、スタジオの営業も自粛する極めて厳しい経験もしました。そんな時を経ても、競技選手としてのモチベーションを維持し続けた選手がこれらの大会に参集し、観客の皆さんの前にその勇姿を披露できたことは、何よりの喜びだったと思います。
1年間も競技の場から離れてしまうと、試合の勘も狂ってしまうのが当たり前。実際に、変に緊張して実力を発揮できないままに終わってしまった選手もいれば、「水を得た魚」のごとく生き生きと素晴らしいダンスを見せてくれたカップルもいました。競技会が再開したときに最高のパフォーマンスができるようにきちんと計画を立てて練習を積んできたカップルと、現状維持に終始したカップル、良くなるための準備ができていなかったカップルとの差が、明らかに見えた競技会であったようにも思います。
スーパージャパンカップで私はスタンダードの審査を担当しました。今大会で好感を持ったカップルとしては、VWとQで初ファイナルに名乗りを上げた金野哲也組、5種目でセミファイナル入りした島田寛隆組、大西亘組。Qでセミファイナルに食い込んだ景山雄紀組、プロデビュー戦にもかかわらずVWでセミファイナルに進出した日比野湧組、5種目準々決勝の寒河江貴大組です。今後のインプルーブによっては、近い将来が非常に楽しみな有望カップルだと思います。
ラテンセクションでは総合4位にランクインし、次期チャンプの座を虎視眈々と狙う野村直人組、同門の竹内大夢組も上を狙えるポジションにつけています。4種目に決勝に駒を進めた岡本圭祐組、5種目にセミファイナル入りした高野大樹組などは、今後、日本のレベルアップに大いに貢献するに違いありません。
セグエ選手権でも激戦が繰り広げられました。ラテンでは正谷恒揮組の「バンパイヤ」、髙野大樹組の「くるみ割り人形」などは、カップルの個性を存分に引き出したとても魅力ある作品だったと思います。スタンダードでは今回初制覇の浅村慎太郎組の「Funky Ballroom」がダントツの作品で、セグエの歴史に残るレベルの高い作品だったと思います。惜しくも優勝を逃した橋本剛組の「ジゼル」も完成度の高い作品。3位の福田裕一組の「王様と私」も甲乙つけがたい素晴らしい作品だったと思います。
今回は、会場に行けないファンの皆さんのために、3団体ともにインターネットによるライブ配信がなされ、多くの方々がトップダンサーのバトルを視聴されたと聞いています。コロナ禍による我慢は、逆にダンサーのレベルを押し上げるエネルギーになることでしょう。今年6月の「日本インター」や11月の「バルカーカップ」などは、見応えのある大会になるのは疑いようのないことです。
最後に、各団体の競技会では長年にわたり活躍したトップ選手の引退デモも披露されました。JDCの松岡憲昭組、JBDFの仲秋彰耀組、西井雄紀組、そしてJCFの中嶋秀樹組。お疲れ様でした。彼らの今後の活躍を祈りたいと思います。