偉人たちの言葉
「スウィングダンスは3歩に1回のロアがあり、3歩で一つのスウィングをする」。今は亡き師匠の久保寛幸先生が常々口にされていた言葉です。スウィングダンスのムーブメントをより自然なものにするためのエッセンスが凝縮した言葉。英国の師であったソニー・ビニック先生も、ロアの足は通過の足だとして「No Weight, Weight ! 」という言い方で、スウィングの秘訣を繰り返し教えてくれたものです。この英語を私なりに意訳してみると、「体重をかけないでステップした左足を用意したら、その足の上を体重を通過させろ〜〜〜!」となリます。
これに伴って大事なのは、「進行方向に先行する方のボディサイドは長く高い」というもの。これも師匠の久保文子先生が口を酸っぱくして繰り返していた言葉です。ワルツのナチュラルターンでもPPからのシャッセ from PPでも、先行する方のボディサイドが緩んだり短くなっては、3歩に1回あるロアの足を通過して行くことはできません。さらにビニック先生は、「Release your side !」と言い切ります。「自身の先行するボディサイドを解放せよ」となりますが、これも立っている足を使って先行するサイドが、横方向に加速して行くには、絶対に短くしてはいけないということなのです。
ダンスの一般論に「Swing Turn Sway」というものがあります。これは「スウィングはボディのターンにつながり、最後にそれはスウェイに展開する」というもの。全く異論はないのですが、ビニック先生の言う「Release your side ! 〜 自身の先行するボディサイドを解放せよ」とは「Sway makes Turn ! (加速あるものに傾きを加えると回転が始まる)」という事実に基づいたものだといえます。
進行方向に足の上を通過して行きながら、さらに先行するサイドがリリースされることが自然なCBMを生み出す、とも考えられます。一般論と事実は矛盾しているように聞こえますが、それをうまく融合させることで、説得力のあるダンスに展開できるのです。
「男がPPに開く動作はない!」。これもビニック先生。男性の右側に女性がいますから、男性が進行方向のサイドを長くしたまま女性にほんの少し先の横への移動を始めれば、パートナーはPPでの進行方向をクリアに察することができます。
さらに「男の足の位置の基本は横少し前だ〜!」。「Step side slightly forward !」とビニック先生は続けます。例えばシャッセ from PPを3歩に1回のロア=No Weight ~ Weightで踊るときに、男性はPPに開くことなく壁に面したままの状態で、その左足を進行方向の横に対して、ほんの少し前にステップすることで、ボディには右スパイラルのエネルギーが生まれ、男性のボディはより立体的になり、この変化が女性を完璧にPPに開くリードとなります。
「ただ一つの理想像」に到達した偉人からの音楽的芸術へのアプローチ
これらのスウィングダンスの考え方は前進から回転に展開するフィガー全てに当てはまることなのですが、「では後退の場合はどうなのですか?」と聞かれることがよくあります。単純に自分が後退ということはパートナーは前進です。何をすれば良いかはちょっと考えればすぐに分かることです。前進回転を担当するパートナーに自分がやった「3歩に1回のロア、3歩で1個のスウィング、先行するサイドは長い」という考えを素直に実行できるようにしてあげれば良いのです。後退する側にはNFR(ノーフットライズ)や次の方向につま先を向けるポインティングというテクニックに身体の回転を少なくという加減の仕方を知っていれば、前進するパートナーはフルに前進スウィングができるチャンスが生まれます。
PPからのランニングウィーブやナチュラルウィーブのようなフィガーで言うと、最初のロアからの右回転前進スウィングをし、女性と向き合い始めたら、そこからは女性が積極的な前進スウィングを始めます。男性は2歩目、3歩目とトウ〜トウのフットワークで右サイドを長いままに、右サイドリードから左足CBMPで後退の足の位置になるように後退します。その際、女性には2歩目〜3歩目をトウ〜トウのフットワークではありますが、男性のするフェザーステップを女性にやってもらえば良いのです。
男女が向き合ってリード&フォローすることによって、男が男であり、女が女になりきれるダンスとなり、ひいては夢があり存在感のある、パワフルで且つシルクのごとく滑らかな、そして一体感のある音楽性にあふれたダンスとなる。これは普遍の真理を背景に成し得るものであり、スポーツ性を持った音楽的芸術へのアプローチ。これらは「Just One Idea (ただ一つの理想像)」に到達した偉人たちから伝えられた言葉なのです。