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田中英和先生のワールドダンス

コラム&本誌企画

「令和」に入り

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令和の時代が始まり3カ月が経ちました。令和に生まれた赤ちゃんが小学生になる頃、昭和生まれの私たちを、昔、私たちが明治生まれのおじいちゃんを見ていたのと同じ感覚で見るのかな、と世代の移り変わりを感慨深く思ったりもしますが、「いやいやまだまだ〜」と、若さ維持の努力を続けることを心に誓う今日この頃です。

さて、令和に入り頻繁に取り上げられている話題に、AI技術の進歩、支払い方法もキャッシュレス時代の到来、電気自動車の開発とその実用化などがあり、かつて未来予想図として描かれた世界にまた一歩近づいている流れを感じます。技術革新のレベルとそのスピードは昔とは比べものにならないものがあり、生活レベルをさらに向上させていく時代がこの令和と言えるかもしれません。

私たちのダンスの世界に目を向けてみても、様々な試みがなされています。採点管理の技術などはダンス界でも発展し、ジャッジが端末を手に採点する競技会は世界各地で開催されています。WDSFの世界大会などでは、瞬時に採点結果が表示されるシステムが採用。さらには、AI技術などの発展で集客方法の改善や大会運営の改革なども、大いに期待できる進歩であろうと思います。

実際のダンスのレベルアップに関しても、野球のピッチングフォームやゴルフのスウィングフォームなどを解析するのと同じように、世界トップダンサーの動きをコンピュータ解析した技術は相当進歩し、そのような映像がYou Tubeなどでも発信されているのを目にしたこともあります。また、栄養学やスポーツ心理学などの専門家との連携で、勝負に強い身体作りやメンタル面でのスタミナ向上を目論む方法も進んでいるようです。

しかし、それによって個々のダンサーがそれらのノウハウを持って今以上のパワーや躍動を得ているかというと、まだそこまで発展してはいないように思います。それはあくまで外からの分析であって、映像を見るにつけ「やっぱり世界のトップはすごいな〜」という個人レベルで終わってる感は否めないのではないでしょうか。

もしも彼らと同じレベルで踊る感覚を体感できるマシーンがあるなら、筋力や体力の強化に繋がるかもしれませんが、まだそのようなマシーンは開発されていませんし、もしそのようなマシーンがあったとしても、それはトップダンサーのコピーであり、クローンの大量生産と言えなくもありません。むしろそれ自体が没個性で、なんの面白味もない開発費の浪費になってしまうかもしれません。

ダンスとは、人間と人間が向き合って作り出す芸術・スポーツ、そして娯楽。

今ダンス界に起きている(と思える)新しい流れは、人間のできる肉体的限界へのさらなる挑戦、ではないように思います。一時の曲芸的な奇をてらったアクションは、その瞬間は「すごい!」と思うものではありますが、極端に言えば非常に不自然な動作であり、一部の特殊な能力を持った者同士のアクロバットにしか見えなくなってきます。人間と人間が向きあってできる自然な動作の、しかもそれが奇跡とも思える夢のあるムーブメントや空間を生み出す、普遍的な音楽との調和、感動のあまり思わず涙が溢れてくるような感動の瞬間が大事であることに、改めて気付き始めているのです。

このところ国内大会でも好成績を残し、注目を浴びているカップルに、ボールルームで福田裕一・Elizabeth Grey組、廣島悠仁・石渡ありさ組、小林恒路・赤沼美帆組、樋口暢哉・柴田早綾香組、ラテンで野村直人・山﨑かりん組などが挙げられますが、彼らのダンスは、持ち前のスタイルの良さに加え、フロア上での存在感、入れ替わりのあるムーブメントやカップル間で生まれる化学反応、特別なエネルギーレベルの変化などを備えてきているように思えます。

では、これら上昇気流に乗っているカップルがなぜその流れを持ち始めたかは、それこそ元世界グレートチャンピンのビル・アービン先生が残した言葉にあるのではないでしょうか。

「テクニックも、踊るコレオグラフィーも簡単なほうが良い。そのほうが人間はより複雑に変化することができる。そして理解をすることだ。理解をしたなら実際にやってみろ。それを感じろ。それを繰り返せ。できるようになったら、あとは吹っ飛んでいけ!」

視覚的な情報、数値的な解析などが多数存在する昨今の環境は、以前とは比べものにならないほど恵まれているのは事実ですが、それが氾濫となっているのであれば、情報過多が多くの人を惑わせてしまっているのです。あくまでも人間が人間と向き合って作り出す芸術でありスポーツであり娯楽であるダンス。どんなレベルであろうと、理解と実践を繰り返すことでダンスの奥の深い部分に触れ、大いにハマって楽しんでほしいと願うものです。

 

 

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プロフィール

  • 田中 英和

    生年月日:8月9日
    出身:広島県広島市出身
    経歴:1997年2月にアデール・プレストン選手とカップルを組み、5月の全英選手権で日本選手初の第3位表彰台に輝く。「ヒデ&アデール」の愛称で国内外の大会で活躍し、翌98年の全英選手権5位入賞を最後に現役を引退。以降、審査員、コーチャーとして後進の育成にあたっている。また、本誌でも、7年にわたって連載レッスン「ナチュラル・ダンシング」シリーズを執筆し、大好評を博した。
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