「統一全日本戦」を審査担当して
私は10月31日、11月1日の両日、上海で開催の「第3回パリナマオープンダンス選手権」(WDC ワールドトロフィー)に審査員として参加しました。プロボールルームではファン組(米国)の圧勝で、以下コラントーニ組(イタリア)、クラペツ組(ドイツ)の順。プロラテンではディ・フィリッポ組(米国)がダントツの優勝を飾り、以下バーガー組(デンマーク)、フレコータヌ組(モルドバ)と続きました。日本人選手にとってこの日程は、統一全日本戦の直前。ライジングスター部門に出場する選手にとっては日が重なるということもあり、日本人カップルの参加はありませんでした。私はここ数年、アジアにおけるビッグコンペに参加する機会が増えており、強く感じることは、アジアで開催され、しかも世界のトップがこぞって参加するビッグイベントは、上海、香港、台北やシンガポールなどにシフトしているということです。
しかし、そうは言ってもやはり「アジアの盟主」は日本! 第16回を迎えた今年の「統一全日本選手権」にはWDCのトップ審査員が多数招聘され、選手も3団体より多数がエントリー。とても熱い大会となりました。私は「プロボールルーム」の審査を担当させて頂きましたが、10月中旬のロンドンインターでの日本人選手の不甲斐なさに落胆したことが嘘であったかのように、今年の「熱きバトル」は真剣味のある、普段国内で拝見する戦いとは一味も二味も違った印象を受けたことを告白しなければなりません。
今大会のメインスポンサーとなった日本バルカー工業㈱の意向により提示された「優勝賞金300万円」というインパクトのある高額賞金の設定は、それだけでも選手のアドレナリンの分泌を促進するに十分な効果があったのは間違いないこと。さらに今年は、昨年のように大会前のゴタゴタもなく、選手も十分に調整をして大会に臨めたのではないかと思います。
また今大会を「国内における最高の舞踏会」にしようと、参加されたお客様にもドレスコードが徹底され、出場選手の控室も違う階に設け、選手入場の導線も舞踏会の雰囲気を壊すことのないよう工夫が凝らされ、いつものバトル優先の競技会とは違った雰囲気を醸し出したことも大いに評価されるべきだと感じました。
さて、そんな一味違う雰囲気の大会も、予選ラウンドが進むにつれてますます熱を帯び、審査をする側もフロア上で繰り広げられる大接戦に引き込まれていきました。そんなバトルを制しファイナルに勝ち進んだのは、ラテンではJDCから瀬古薫希組、芝西将史組、アマチャンプからターンプロした鈴木佑哉組、JBDCから金光進陪組、増田大介組、正谷恒樹組の6組、ボールルームはJCFの庄司浩太組、JDCから森脇健司組、そしてJBDCから橋本剛組、浅村慎太郎組、新鞍貴浩組、そして本池淳組の計6組。
ラテンの新チャンピオンには金光組が素晴らしいダンスを披露し、堂々の優勝。2位に瀬古組、3位増田組と続きました。ボールルームでのチャンピオンの栄冠は、接戦を制した橋本組の頭上に輝き、2位庄司組、3位浅村組の順となりました。
ラテンでの特筆すべきことは、やはり何と言ってもターンプロ第2戦目の統一全日本の舞台で、なんともエネルギッシュなダンスを披露し、見事ファイナルに食い込んだ鈴木佑哉・原田彩華組でしょう。躍動感の固まりのような鈴木佑哉選手。パワフルでリズミカル、フロアを独占するかのような存在感は、世界へのチャレンジを期待させるに充分な逸材です。カップルとしての実力も、今後の経験次第では将来、「新たな日本ラテンの第一人者」になる可能性を大いに感じさせてくれました。今後の成長が本当に楽しみです。
ボールルームでは、庄司組VS橋本組の直接対決に浅村組がどこまで食らいつくかが焦点で、予想通りのファイナルだったのではないでしょうか。そして見事接戦を制したのは橋本組。しかし一方で、ラテンのようにファイナルに突入してくるような勢いのある若手選手がおらず、ファイナルのメンバーや順位が、おおよそ想像の付くものに落ち着いた感じがあります。
しかし、私はそれよりも上位3組と4位以下との差、はたまたファイナリストとセミファイナリストとの差がかなり歴然としていたように思えてなりません。裏を返せば、インプルーブの勢いがある選手にとっては各レベルの隙間に入り込めるチャンスはいくらでもあるのです。しかし、今の若手にその勢いがない。そのことの方が問題であると思わざるを得ません。
たとえば中国を見ても、かつてのイタリアのように、次から次へと将来性のある若い選手がどんどん出現し、アマチュアの世界トップへ。そしてターンプロ後も、世界のトップに伍して戦えるダンサーが後を断ちません。中国では学校教育の中にダンスが組み込まれている背景もあり、学校でバレエの基本を叩き込まれながら同時にボールルームやラテンの理論や実践を学んで行く環境があります。そしてスポンサーの存在も大きく、UK選手権やブラックプール、ロンドンインターなどにも選手を大挙して送り込むための資金を提供していると聞きます。これらの環境が中国の大躍進に貢献しているのが現実なのです。加えて、海外のトップが集まる素晴らしい大会を開催し、ワークショップと称して世界のトップコーチャーやダンサーに習わせ、トレーニングを積ませる。日本の個人レベルでの孤軍奮闘では、その勝負は火を見るより明らかです。
しかし、そうは言っても、日本のチャンプは皆の憧れ、スター選手です。大いに気を吐いて世界に挑戦し、夢ある未来を指し示して頂きたい。チャンプに追い付け追い越せと、新たな戦いはすでに始まっています。先を見据えてどん欲にチャレンジする気構えを大事に、前進あるのみ! 選手のさらなる健闘を祈りたいと思います。