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田中英和先生のワールドダンス

コラム&本誌企画

「全英選手権」を観戦して

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今年も、日本人カップルの多くは2次予選までで姿を消すことになってしまいました。ボールルームでもラテンでも第1シードの世界トップクラスが踊り始める3次予選に進めたのは、全日本のセミファイナルからファイナルの成績を収めているカップルばかりで、しかも次の4次予選に進めたのはボールルームで橋本剛・恩田恵子組、浅村慎太郎・遠山恵美組の2組。最終のベスト24には唯一、橋本組が進出しただけという残念な結果に終わってしまいました。

日本のトップクラスが成績を残せないのは、世界の舞台で太刀打ちできないほどの差がつけられているのではなく、世界の檜舞台に躍り出るために打ち破るべき「壁」が非常に厚くなっていることが挙げられます。例えば、かつてはベスト24への「壁」となる選手層が10数組だったのが、今では30組を超える数に膨らんでいるのです。それは世界で広がるトレーニングキャンプや中国で見る舞踏学院のような場所で、踊れる身体作りのためのトレーニングに多くの時間を割き、メンタル面での教育や踊り込み、参加者全員をレベルアップさせるプログラムなどにより、優秀なダンサーをより多く世界に送り込んでいるからなのです。

それに対し、日本のダンサーたちは海外のトップクラスに比べて、自身の身体強化に時間を費やしているとは思えませんし、悲しいかな、ダンサーとして不可欠である基礎のレベルアップも滞っているように思えてなりません。そのためのノウハウやプログラムもまだ確立されていないのも問題で、いまだに個人個人の努力に頼っている状態が続いています。毎週のようにやってくるイベントや競技会に追われて、後手後手に回ってる選手がいかに多いことか。世界に挑むだけの準備が十分なされていないのが現状だと思います。

であるなら、どうしたら良いのでしょう。やはり個々が「生活の基本に戻る」しかないと私は考えます。それは「三点固定」、「理論の理解」と「単純学習の反復」。まず朝起きて、学習を始める時間と寝る時間の三点を固定すること。そして、ダンス理論の学習を通じ、様々な単純な動作の繰り返しで身体に覚え込ませること。多忙なスケジュールの中、短い時間でも理解を背景に身体に良い負荷を加えることを続け、足の自由、膝のしなやかさ、脚の強化、インナーマッスルの強化、上半身の自然で強い意志を伺わせる美しさ、自然で強靭なショルダーやアームワーク、後ろ姿の美しさなど、見る者が惚れるほどの「踊れる身体」を追い求めることです。

コーチャーに食らいつく積極的な姿勢で自分たちの理想の形を目指す!

いつもトレーニングキャンプに参加できるものではありませんので、自身の強い意志で「三点固定」「理論の理解」「単純学習の反復」を決行、持続させることしかないのです。個人個人のレベルが上がることでカップルとしての魅力が増して成長が期待できるのであって、パートナーを運ぶような練習を繰り返していても、世界の舞台で挑戦するダンスに発展できるわけがありません。

フォローが仕事の女性も受動的なフォローではなく、積極性を持った主体性のあるフォローができるようフットワークの確認見直しや女性特有のポジションの変化に伴うポイズの正確さ、その俊敏性の改良など自身のレベルを上げる要素はたくさんあります。日本の多くの女性ダンサーには、まだ伸び代は相当にあると思います。その結果、男女間でジャズセッションのような生き生きとした関係が始まったなら、これは踊っている側も見ている側も相当に楽しいと感じるはずで、成績も明らかに違ってくると思います。

そしてもう一点。英国でのレッスンの受け方が非常に消極的でナイーブなのも気になるところです。「皆が行っているから」「行かなければ点がもらえないから」というスタンスでレッスンに行っている選手がいかに多いことか。そのコーチャーに何を学ぶのかの意識、そしてコーチャーに食らいつく積極的な姿勢が見られないのです。そして、英会話能力も影響しているのか、多くのコーチャーに学ぶ中で矛盾に聞こえるレッスンに迷い、自信を失くしてしまう選手を多く見かけます。確かに1回1回のレッスンで矛盾に聞こえることは数多くあります。しかし、それぞれのコーチャーがそれぞれの側面から理想のボールルームダンスの姿を見ているのであって、そこには歴然とした共通項があるのです。コーチャーがもっとも言わんとすることは何なのか、コーチャーのダンスに対する考え方のようなものを知っていくうちに、ボールルームの理想の方向性や、自分に足りないものが何なのかが見えてくるのです。そしてその先に、自分の、自分たちの理想の形が生まれていくのです。

伸びやかで生き生きと、そして溌剌としたダンスを、誰もが願っているのですから!

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プロフィール

  • 田中 英和

    生年月日:8月9日
    出身:広島県広島市出身
    経歴:1997年2月にアデール・プレストン選手とカップルを組み、5月の全英選手権で日本選手初の第3位表彰台に輝く。「ヒデ&アデール」の愛称で国内外の大会で活躍し、翌98年の全英選手権5位入賞を最後に現役を引退。以降、審査員、コーチャーとして後進の育成にあたっている。また、本誌でも、7年にわたって連載レッスン「ナチュラル・ダンシング」シリーズを執筆し、大好評を博した。
    田中英和ダンスワールド

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