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田中英和先生のワールドダンス

コラム&本誌企画

ホールド

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「ダンスはホールドに始まりホールドに終わる」とは、かのグレートチャンピオン、ビル・アービン先生の言葉です。見様見真似の形から始まり、リードの極意に至るレベルまで、どんなダンサーでも克服していかなければならない重要なテーマの一つなのです。

ホールドとは、ボールルームダンスを楽しむ上でなくてはならないもの。男女が手を取り合い、一体となって流れるようなムーブメントを生み出す「魔法」は、このホールドなしに語ることはできません。そしてホールドの役割を理解し、実行していく地道な努力は楽しいものです。なぜなら、ホールドの理解が深まるにつれて、明らかにダンスが良くなっていくことが感じられるからです。焦らずサボらず、このテーマに取り組んでいこうではありませんか。

ホールドはカップルで踊るための独特なスタイル(形)とまずは捉えるべきでしょう。ホールドには「抱く」という意味もありますが、相手を抱くという意志や行為を第一に考えるよりも、まずは客観性のある美しいスタイルを求める必要があると思います。競技会でもフロアの上に立つそのスタイルの良し悪しが勝負の基本で、張りのあるホールドができること、それを維持できることが上位に進出するための絶対条件であるのは明らかです。

ところがクラスが上がっていくにつれて、肘を張っただけのホールドでは様々な不具合が生じてきます。ロアの量が増えスウィングのレベルが上がり、回転量の大きなフィガーをこなさなければならない状況になると、「肘を張る」だけの動作では上半身が固まってしまい、下半身と上半身の連動性は機能しなくなって、それこそ腕力頼みの我慢比べが始まってしまうのです。踊りたいフィガーを自由に踊りこなしていくためには、やはり形だけでなく、そこに隠された「秘密」を知ることが上達への足がかりになると思います。

秘密といっても手品やイリュージョンがそこにあるのではありません。「人間同士の優しい気持ち」と「理にかなった身体のシステムの理解」、それに「無理のないレベルでの身体能力」が合理的に働いていれば、社交ダンスは誰でも楽しむことができ、見ている側にも夢、一種の現実離れした瞬間を生み出すことができるのです。

両腕を開く動作は「自身のバランスの良さ」であり、「心を開き相手を受け入れる優しさ」であり「安心安全、協調の現れ」なのです。この腕を開く動作の自然な伸びやかさや明るさがとっても大事。笑顔でカップルとなる始まりを大事にして欲しいと思います。

目指すべきは「パワーのあるコネクションを持ったホールド」

カップルは5つのコンタクトポイントを持ちつつ、ホールドのスタイルを作っていきます。立つ位置の再確認ですが、男性の右足のつま先を女性の両足のつま先の間にくるところに立ちます。男性の右脚のスラックスの折り目の延長線上の右ボディと女性のボディの中心が向き合うように立ってください(前号の記事も参考に)。

次にコンタクトを再確認しておきましょう。1つ目のコンタクトは男性左手、女性右手。グリップと言われる手と手を合わせるとても気持ちの良いコンタクトです。2つ目は男性右手首付近と女性の左二の腕の脇に近いあたり。3つ目は女性の左手首から左手が男性の右腕の肘から右肩あたりにフィットするように置かれるコンタクト。4つ目が男性右手が女性の左肩甲骨のやや下あたりに触れるコンタクトです。最後の5つ目が男性のボディと女性のボディです。

1つ目のコンタクトはカップルのバランスと方向性を示すもので、2つ目はバランスをもらった女性のエンジンのスタートキーのようなもの。男女ともに踊り続ける以上この接点を失ってはいけません。3つ目は女性がこのカップルに参加する意志の表れで、これで一体感のあるダンスに向かう準備ができました。4つ目はさらにダンスが良くなっていく方向への誘導。女性のシェイプが立体的になりフォローするスタイルへと展開します。そして5つ目が安心、安全の保障で、パワーポイントでもあります。上体にある4つのコンタクトが関連性を持ち、踊り始められる実感を抱く瞬間です。

理にかなったくびれのあるボディ同士のホールドは上半身にストレスがなく、インナーマッスルが十分に刺激されたしなやかなボディは、コンタクト(接点)という意味のホールドから「パワーのあるコネクションを持ったホールド」に展開していくのです。決して上半身の腕力頼みの「枠」ではない、「ボディでホールド」するという優しくも安心と安全を感じる、存在感を持ったホールドを、ぜひマスターしていってほしいと願います。

 

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プロフィール

  • 田中 英和

    生年月日:8月9日
    出身:広島県広島市出身
    経歴:1997年2月にアデール・プレストン選手とカップルを組み、5月の全英選手権で日本選手初の第3位表彰台に輝く。「ヒデ&アデール」の愛称で国内外の大会で活躍し、翌98年の全英選手権5位入賞を最後に現役を引退。以降、審査員、コーチャーとして後進の育成にあたっている。また、本誌でも、7年にわたって連載レッスン「ナチュラル・ダンシング」シリーズを執筆し、大好評を博した。
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