腰
「腰」は文字通り人間にとって身体の要です。大辞林にはこう書かれています。「人体で脊柱の下部から骨盤あたり。身体の後ろ側で胴のくびれているあたりから、一番張っているあたりまでを漠然とさす。上体を曲げたり回したりするときの軸になり、身体を動かしたり姿勢を保ったりする時に重要なところ。(以下略)」とあります。腰を英語で記せばWaist(ウエスト)であり、英和辞典には「腰(のくびれ)、胴の細くなっている部分で、日本語の腰の上部」と明記されています。
ダンスの上達においても自身の身体の要である「腰」、そして「Waist」の意識は非常に大事だと思います。特に大辞林にある「身体の後ろ側で胴のくびれているあたり」のラインは、魅力あるダンサーに共通するものです。これは男性女性ともに言えることで、踊れる身体のバランスの良さ、そして強さの基準になっていると言っても過言ではありません。腰のくびれは脊柱で言えば腰椎のあたりで、肋骨と骨盤の間です。この大きな2つの骨の間に良い意味の緊張感が必要なのですが、くびれのあるしっかりとした腰の感覚は、インナーマッスルの存在が大いに関係しているのです。
肋骨の内側には肺があり、肋骨の下あたりには肺と胃や肝臓を隔てる横隔膜というインナーマッスルがあります。肺は横隔膜の上に乗っかっているもので、胃や肝臓は横隔膜の下にくっついているものなのだそうです。また骨盤の内部にも、深部腹筋群と総称される腸腰筋や大腰筋などの強靭なインナーマッスルが存在します。これらの腹筋群は腰椎の安定を図る非常に大事な筋肉群で、これらのインナーマッスルは美しい姿勢のためには絶対必要なもので、腰のしなやかさや強さにもつながる非常に大事なものなのです。
踊れる身体作りに大切な、身体の要としての「腰」の理解と実践
そして、合理的に踊れる身体を作っていくためには、呼吸が大事になります。呼吸によって肺が膨らむことで横隔膜が下に押し下げられるのですが、それを感覚的に知るためには、みぞおちの裏側あたりの背中に圧を加えるような深呼吸をすることです。それによって胸を張ることなく深い呼吸ができ、横隔膜を下に押し下げることができます。
同時にフットプレッシャーが深部腹筋群などの強靭な筋肉に刺激を加え、下っ腹を引き上げる動作につながり、下腹部に良い緊張感、腰椎の安定が生まれます。この胴体の上と下にあるインナーマッスルの動きによって腹圧が強まり、腰のくびれあたりのパワーが増すことになります。この状態になると、首や肩、腕には全く余分な力はかからず、上半身の自由を感じるようになるのです。
また、グループレッスンなどで「おへそをパートナーの方に向けましょう」という言い方をすることがあります。お互いの右サイドと右サイドが向き合うところに立った後は、お互い立体的に向かい合えるように、自身のセンターを右にいるパートナーの方へやや絞るような感覚で向けることも、くびれのあるしっかりとした腰の感覚を明確にしてくれます。この動作は、自身のボディセンターの強さがパートナーとのより良いパートナーシップを得るために大いに役立つのです。
男性の右アーム、ヒップの高さの変化、男性のアッパースパイン(胸椎)の変化にフォローする女性は、軸足である左足に立ち、このくびれのあるしなやかな腰の上で、左ショルダーは男性のアームに向かってやや左後ろ方向に、そして右のヒップ(右腰骨あたり)はやや右後ろ方向に、少し開くようなアングルを持つと、センターがより強くしなやかに絞られているようなスタイルになります。これにより女性は男性のサポートを受けつつ、より立体的なスタイルで男性の作り出すスペースをいっぱいにし、なおかつ自由に舞うことができるようになります。
くびれのあるしっかりとした腰を持つことで、お互いをお腹で押すことなくフィット感を楽しめるようになれば、もうこっちのものです。上半身の余分な力みは抜け、ゆったりとワイドなホールドでパートナーにバランスとシェイプを与えることができるようになります。それこそ、腕ではなく、ボディでホールドをする感覚が生まれ、心地よい推進力をも生み出してくれるでしょう。
自由を謳歌することがボールルームダンスの目標でありゴールなのですから、踊れる身体作りの基本中の基本、身体の要としての「腰」の理解と実践を強くお勧めしたいと思います。