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田中英和先生のワールドダンス

コラム&本誌企画

自然

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連日、異常なほどに気温が上がり、度重なる台風の襲来、極端なまでの豪雨など、自然災害が多発した過去に例がない「残酷な夏」でしたが、皆様におかれましてはいかが過ごされましたでしょうか。熱中症などの被害報道や、災害からの復旧がなかなか進まないニュースが流れていましたが、この夏、体調を崩された方々の健康回復と、災害により甚大な被害を被られた皆様の一日も早い復旧を願っています。

私たちが望む「自然」とは、地球上にあるバランスの取れた美しいもので、人間が心地良く開放感を味わえる、普段の生活の中にある「ハーモニー」を意味するものではないでしょうか。力強い側面を持ちつつも、優しさと優雅さを兼ね備えたもので、身体で感じる時も目に見える時も、「美しい自然」であることを望んでいるのです。

ところが現実はそうではありません。周りにあるものはなかなか美しくハーモニーのある「自然」ばかりではないのです。むしろそのような「美しく快適な自然」など希少価値と呼ぶもので、ほとんどの「自然」は荒々しい側面を持つのではないでしょうか。特に今年の夏のような「自然」は、恐ろしく危険なものだったではありませんか。

だからこそ私たちは、より「美しい自然」を求めるのではないでしょうか。美しい風景のある世界の名所を訪れる観光客が絶えないのもその証で、私たちが美しいものに夢中になるのも力強さと優雅さを兼ね備えた「美しい自然」というものへの憧れを抱いているからなのではないでしょうか。

さあ、ではここからは「ダンスにおける美しい自然」について触れてみたいと思います。

地球上の「自然」の中に存在するものに「重力」があります。振り子運動に代表されるスウィングも、この世界にのみ存在するもので、直立歩行できる私たち人間の骨格や筋肉のバランスとこの重力との関係で、伸びやかで力強いムーブメントを生み出すことができるのです。加えて、他の人間にあれほど近距離に向き合い、一体感のあるムーブメントを生み出すことは奇跡に近いことのようにも思います。

ところが、直立歩行できる私たち人間であっても、心地良く一体感を持って踊り続けることがなかなか難しくなるときがあります。それは予測できない変化が起きてしまうときです。地震が起きた瞬間に私たちがパニックに陥るように、ダンスにおいても突然のハプニングには即冷静に対応などできないのです。ボールルームダンスで言えば、急にしゃがむ、急に捻じれる、急に落ちるなど、急な骨格やバランスの変化や、急に筋力のみに頼る動きが始まってしまうと、それまで存在したハーモニーは一気に崩壊してしまうのです。

各人のそれぞれの姿勢もある意味、各人の「癖の集大成」でもあり、直立歩行のできる人間であっても、それが全く合理的で理想的なスタイルで踊れるものかどうかというと、なかなか客観的な「自然」で踊れないことがほとんどです。ですからその癖を修正し、合理的に「自然」に踊れるように、私たちは日頃から立ち姿に気を配り、屈伸動作の正確さ、スタイルを維持するためのホールドの練習、重力との調和のための脚振りの練習などを繰り返すのです。

ダンスにおける「自然」とは、フロアの上で何でもできる身体作りから始まる。

ボールルームダンスのルールを覚え、無理なく踊れるレベルになって行くと、徐々にロアが深くなり、スウィングにウェイトが加わるレベルに移行していきます。このレベルになると、レベルに比例して、姿勢を維持するに十分な身体のトーンの強さが必要となり、関節の可動範囲の大きさも要求されるようになります。強靭なインナーマッスルからくるしなやかさを体幹トレーニングで高めて行きつつ、リーダーの仕事としてのパートナーへのサポートを確立し、それに反応するパートナーの美しくも軽やかな動きがマッチしたときに、主観的でかつ客観的な美しく力強い「自然」が生まれるのです。

ダンスにおける「自然」とは、自身のより美しく合理的に反応するスタイルの追求をベースに、インナーマッスルとアウターマッスルの強靭で伸びやかさを持った絶妙なバランスなどからくる音楽的に無駄のないスウィング動作に見て取れます。これらに外回り内回りなどの基本的な考え方、男女のポスチャーやフィガーの理解を基にそれぞれの役割を繰り返して、「フロアの上で何でも出来る身体作り」をすることがより「自然」なダンスへのアプローチとなるのです。

その「自然」なスタイルの過程には色々な「遊び」が含まれて行くのですが、それは人間の欲求であって、だからこそヴァリエーションというフィガーがあり、合理的な流れのコレオグラフィーもあれば、意外性のある展開を見せるものもあります。ですが、あくまでもルールを逸脱した変化でないこと、「不自然」でないことが条件です。ダンスは人間が人間に対してすること、それに反応することの連続ですから、荒々しい側面の「自然」もあくまでルールの範囲で収めることが肝心です。互いにミスがあるときは早くそれに気づき、修正する習慣を持つことがダンスにおける自然へのアプローチに必要なことです。

さあ、いよいよ秋シーズンの始まりです。まずは天変地異のハプニングもなく、皆さんが安心して暮らせる生活が戻っていることが最優先ですが、秋の清々しくも美しく天候に恵まれた中で、「力強く美しい自然なダンス」を大いに楽しみたいものです。

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プロフィール

  • 田中 英和

    生年月日:8月9日
    出身:広島県広島市出身
    経歴:1997年2月にアデール・プレストン選手とカップルを組み、5月の全英選手権で日本選手初の第3位表彰台に輝く。「ヒデ&アデール」の愛称で国内外の大会で活躍し、翌98年の全英選手権5位入賞を最後に現役を引退。以降、審査員、コーチャーとして後進の育成にあたっている。また、本誌でも、7年にわたって連載レッスン「ナチュラル・ダンシング」シリーズを執筆し、大好評を博した。
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