社交ダンス情報総合サイト Dance View ダンスビュウ

田中英和先生のワールドダンス

コラム&本誌企画

フットワークの話

Xで共有する
Facebookで共有する

「君はフットワークを理解していない」

私がまだ全国区に名前が上がる以前の話ですが、元世界グレートチャンピオンのピーター・エグルトン先生のレッスンで発せられた言葉です。スローフォックストロットのレッスンで、音楽に合わせてベーシックフィガーのフェザーステップ、リバースターン、スリーステップを踊ったとき、「君はなぜ、ストロングヒールを使うのだ?」と。ストロングヒールという言い方自体、初耳だった私は、「フェザーステップ第1歩の右足のことですか?」と返すと、「そうだ」と。「フットワークがヒール~トウだから」と答えたところ、冒頭の言葉を発せられたというわけです。

ピーター先生は続けました。「ではその場でジャイブを表現してみなさい」。10ダンスに取り組んでいましたから、私はジャイブのリズムをその場でフットワークを言いながら表現すると、「それでいい。ではルンバは?」。ラテンダンスの基本リズムをフットワークを言いながら表現したところ「じゃ、フォックストロットは?」「………わかりません………」と返事するしかありませんでした。

移動の際の着地の順番ぐらいにしか思っていなかった私は、まさかスタンダードダンスのフットワークをリズム表現と絡めて考えるなど思ってもみなかったのです。「片足を軽く前に出して、その足のヒールからフロアを軽くこするように自分に引き寄せてみなさい。引き寄せたら足を代えてそれを繰り返しなさい。それがスウィングダンスのヒール~トウのフットワークで、それがスウィングダンスのリズム表現になっているんだよ」と。

出て行くのではなく引き寄せる? これは私にとっては革命的な発想でした。「進まないのですが」というと「心配ない。君はもうやっている」と。「ど、どこで???」「クイックステップのシザーズだ」と。『!』。なるほど! 足の引き寄せは身体の中のトーンを強くし、引き寄せるためのパワーはインナーマッスルのエネルギー量を上げるのか!

と、なんとなく分かったような瞬間があったものの、引き寄せながら実際に前進して行く、ドライブからスウィングという実践的なムーブメントが出せるわけがありません。四苦八苦しながらも2レッスンあったその最後の時間あたりに、ピーター先生を招聘したスタジオの先生が部屋に入ってこられた瞬間、「田中くん〜〜すごいよ! 浮いてるよ!」と。「え〜先生、ほんとですか〜?」

「見えないロープを自分の方に手繰り寄せるように踊りなさい」と言われるのと同じ意味なのでしょうが、まさかフットワークの理解がリズム表現と身体の中の推進力を生み出すことに繋がるとは思ってもいませんでした。

フットワークの理解が、踊るための準備の第一歩!

フットワークの理解と実践により体の中にリズムと推進力を生み、インナーマッスルにトーンが加わったときのボディはまさしく今から踊るための準備が完了した状態と言えます。

非常に背が高く見え、首や肩、上半身に力みがなく、すっきりと美しく見えてきます。ホールドする両腕も力むことなく、とてもワイドに伸ばすことができます。そして肩甲骨の下あたりに腕の重さを乗せる台の様なものができ、それに乗せるだけで両腕が落ちなくなり、美しい肩のラインを崩すことなく踊り続けることができるようになります。

ボールルームダンスの上達のためには、まずは体重をどちらかの足に乗せることが基本的な考え方です。その体重のある足を使って膝を緩めながら重心移動すること。脚を振ることでウォークしていくことなども基本的に大事なことです。そして実際にPPでのライズから降りるときはトウから、ロアをした後のステップはヒールから、といった着地の順番が大事であることは当たり前のことです。

そして、さらにダンスのレベルを上げていくには、よりスマートでリズムのある、パワーも十分な推進力のあるボディを作っていくこと。何度も繰り返しますが、そのためにもフットワークの発想の転換が必要と考えます。

UK選手権やアジアオープンなどで海外トップ選手のダンスを見た後に国内の大会を見ると、足を使って作り出しているもののあまりにも違いがあることに正直愕然としてしまいます。今、ほとんどの日本人男性は、リズムのない推進力を持たない重たい身体を、脚力で運ぶ努力を繰り返しているようにしか見えてこないのです。

フットワークの理解は踊れる身体を作ることに役立ち、常にリニューアルでき、時としてバージョンアップを見せるようになるのです。男性がフットワークを楽しむことができるようになると、うまく踊れるかどうかとか、予選で落とされるのではないかとか、そういった不安は全て解消されます。ルックスも強く、しかも上手く踊れて当たり前になるからです。ゆっくりも速くも踊れる自由があり、フロアクラフトも完璧、それで悪い成績に終わるわけがありません。そんなすっきりとして粘りのあるボディでホールドされたパートナーは、それこそパラダイス! 女性も自分のすべき仕事に専念することができ、弱いと指摘される日本人女性の汚名返上にも役立つのではないでしょうか。

男性諸君! 着地の順番としてのフットワークだけでなく、発想を転換させてさらに強く美しく合理的に踊れるためのフットワークにチャレンジしてみてはいかがでしょう!

 

Xで共有する
Facebookで共有する

コメントを残す

*

※必ず全ての項目へ入力の上、「コメントを送信」ボタンを押してください

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

プロフィール

  • 田中 英和

    生年月日:8月9日
    出身:広島県広島市出身
    経歴:1997年2月にアデール・プレストン選手とカップルを組み、5月の全英選手権で日本選手初の第3位表彰台に輝く。「ヒデ&アデール」の愛称で国内外の大会で活躍し、翌98年の全英選手権5位入賞を最後に現役を引退。以降、審査員、コーチャーとして後進の育成にあたっている。また、本誌でも、7年にわたって連載レッスン「ナチュラル・ダンシング」シリーズを執筆し、大好評を博した。
    田中英和ダンスワールド

最近の投稿

アーカイブ

ページトップへ