【ダンスビュウ3月号DVDの見どころ】
既にご覧になった方も多いと思いますが、今月のDVDは田中英和先生のアマチュア選手向け講習会(2018年11月実施)を収録しています。
ベーシックムーブメントと、その応用をテーマにした昨年の講習会(上達の秘訣&上達の秘訣Part2)を、より実践的なレクチャーにしたものです。
テーマは「勘違い!~思い込みからの脱却を~」。
よく見受けられる、思い込みからくる勘違いと、その原因(背景)及び対策(正しい方法)について語ったレッスンです。
例えば、ナチュラルターンや、スローアウェイオーバースウェイ、オープンナチュラルなど頻繁に使っているステップを題材によくある勘違いについて解説されています。
通常のDVDと異なり、受講生に向けたアドバイスを通じ、よりリアルな雰囲気が出ていることが特徴です。
“勘違い!” というタイトルは、田中先生の本誌連載エッセイ「田中英和のワールダンス」の文中の見出し(2018年11月号~2019年1月号)をそのまま使いましたが、「勘違い」という言葉から喚起される実感は、視聴者の方の年齢が20代~30代である場合と、50代以上である場合で大きく異なると思います。
それは、やり直しが利く時間を後の人生の中でどれだけ持っているかによって、「勘違い」の実感や「勘違い」から脱出できる可能性が大きく異なるからです。
「勘違い!」の根底にあるメッセージは、おそらく“努力の方向”だと思います。
¥昨年のDVD「上達の秘訣」の中で、努力の方向を間違えると、望ましい道を進んだ場合と比較して数倍の年月を費やす、という一幕がありました。
つまり“誤った学習・間違った体験”を消すことが加わるぶん、ゼロからスタートする場合より学び直しに時間がかかるということです。
なぜ、努力の前に「方向」が大切なんでしょうか。
前述したように、それは人の持ち時間に限りがあるからです。
例えばプロダンサーが現役でいられる活躍できる期間には限りがあります。
だいたい学連(18歳)から始めて、三十代半ば頃がピークでしょう。
専攻する種目や、個々の資質・体力によるでしょうが、実質15年位がプロとして輝ける時期。この間に結果(成績)を出すことを自他ともに求められる職業です。
もちろん、プロほどシビアでないにしろ、アマチュアの方でも積極的に踊れる時間は有限です。
上手くなろうとすればこそ、スタートの段階で「努力の方向」を見分ける直観は、後々重ねる「努力の量」や、後天の判断で磨く「努力の質」よりも、はるかに重要だ、ということです。
でも努力の方向というのは、自力で見つかるものではありません。
ダンスに限らず、他のスポーツや習い事、仕事や教育でも同様ですが、物事に取り組んだ最初の時期に、努力すべき方向など分かるわけがない。
大方の人が、とにかくやってみて、修正して、またやって、ということの連続でしょう。
たぶん努力の方向を暗示してくれるのが、“師匠”と言われる人の存在です。
何故なら、かつてその道を通った先達は、多くの知恵をもっているからです。
師匠の言葉が、言われた時点で正しいかどうか分からなくとも、とりあえず丸呑みして実践する。そして相当の年月を経てから、“ああ、この方法で良かったのだ”と、事後的に納得する。その「努力の道筋」を決める最初の一歩が「方向」です。
例えば、DVDの中で田中先生が競技ダンスを始められた頃、ビギンダンス教室の師匠、故久保文子先生から「燕尾服を着たとき、カマーベルトが見えなくなるくらいに女性におへそを向けて組みましょう」と言われた記憶があると、語る件があります。
フットプレッシャーから生じるスパイラルのエネルギーを語るときに添えられたエピソードですが、この場面、本当に師匠の久保文子先生と田中英和先生を繋ぐ見えない糸が現れたようで、個人的にはとても好きですね。
師匠を持てない大方の人(筆者も)が、「本当の方向」に気づくのは、おそらく現役と呼ばれる年齢が終盤に差し掛かったころのはずです。
そういう意味では、偉そうに聞こえるでしょうが、ダンスって難しいなぁって、思います。誰と出会うかによって、歩く方向が違ってくる。
まぁ、とりとめもなく、感想を述べましたが、とにかくまだご覧になっていない方は、DVDをご覧ください。
上達を志した方ならば、「勘違い!」が、縁と努力で紡がれたダンス人生を振り返るきっかけになることを実感するでしょう。
(DVD制作担当)