クィアタンゴ・ワークショップ in ニューヨーク 〜Tango Technique for Male followers and Female leaders #2
ディアナ先生(左)とホアン先生(右)
■Diana Suárez Chica(以下ディアナ先生)インタビュー
お二人のパフォーマンスをいくつか拝見しましたが、トラディショナルな振り付けのパフォーマンスの中でもリードをされていましたね。
ディアナ: 私たちは他のパフォーマンスでは見られない、違ったことをしてみたいと思っています。パフォーマンスというのは、自分たちが何をできるのか、アーティストとして何を信じているのかを表現する場です。ですからロールスイッチ(編注:リーダーとフォロワーが入れ替わること)をすることで、ジェンダーによる違いはないのだということを見せたかったんです。
男性のリーダーと、女性のリーダーの違いは何だと思いますか。
ディアナ: 違いは無いはずなんです。体格のことを考えれば、小柄な男性も、大柄な男性もいるわけでしょう。どちらかというと文化や価値観、自分の意識といったものが違いを生み出すわけですが、よいアブラッソ(抱擁)ができて、タンゴの言語を知っていれば、男性であろうと女性であろうと関係はありません。
もちろん体のつくりに違いはありますが、それは問題になるはずではないと思います。
リーダーとして踊るとき、なにを意識していますか。
ディアナ: まずは、アブラッソ(抱擁)が心地よいものであるかどうかということです。オープンでもクローズでも、抱擁の中で一緒に踊っているという意識は常にあるはずです。抱擁をつくって、そしてともに歩き始めるわけですよね。
リーダーは、ペアの中で唯一自分が、二人がどこに向かって行くのかを知っていて、相手は知らないのだということを意識しなければなりません。ですから相手の軸や振りのタイミング、自分が提示しているものを相手が理解しているのかに注意して、二人が居心地のよい空間にいるか、音楽にあわせて踊りを楽しんでいるかということを気にかけていますね。
コロンビア出身ということですが、クィア・タンゴはコロンビアでどのようにうけとめられていますか?
ディアナ: 私は昨年まで10年ほど、ブエノスアイレスに住んでいました。今年久しぶりにコロンビアに戻り、何人かの女性がミロンガでリードしているのを見てとてもうれしかったです。数年前までは珍しいことでしたし、今でも、特にタンゴを踊らない人たちからはよく思われていません。同性同士で踊るなんて、同性愛者なんでしょ、というふうに。そうとは限りませんよね。ですがコロンビアのタンゴはオープンになってきています。クィア・ミロンガはありませんが、同性同士で踊ったり、ロールスイッチをするペアはよく見かけるようになりました。ムーブメントが広がってきていると感じますよ。
タンゴの未来に、何を望んでいますか?
ディアナ: いろいろあります。ひとつは伝統的なタンゴにも敬意を払い、保存していかなければならないということ。しかし男性がリードし、女性がフォローするというかたちは、ひとつの選択肢として存在するべきだと思います。タンゴというものは包容力が大きいのです。リードしたいか、フォローしたいか、自分で選んでよいと思うのです。また私は、ダンスの中でリード、フォローという役割をはっきり分けてしまうのにも抵抗があります。たとえばリーダーがフォロワーの動きをフォローしたり、フォロワーがリーダーに動きを提示してみたりということもできるのですよ。タンゴというのはもっとオープンであってよいと思います。二人の人間が、抱擁の中で一緒に踊って、動きを創り出していくのですから。
このようなオープンロールのクラスを今後も開催する予定はありますか?
ディアナ: コロンビアのカリでオープンロールの、インプロバイゼーション(即興)のクラスをはじめることを考えています。リードをしても、フォローをしても、両方学ぶのもOK。服装も自由で、ヒールを履きたい人は履いたらいいし、履きたくない人は履かなくてもよいのです。大事なのは抱擁のなかで、ともにダンスを創り上げていくということ、それだけです。
日本のダンサーへのメッセージは?
ディアナ: 私たちはジェンダーのアイデンティティについて、オープンに受け入れる時代に来ています。タンゴも同じです。社交ダンスなのですから、時代を反映させていくべきなのです。
踊りを学ぶとき、あまりストラクチャーを意識しすぎないで。タンゴとは他の人間と楽しむこと、踊ることです。ミスというのは存在しません、なにが起きるか様子を見てみること、もう一人の人間とこの時間を共有するということです。あなたの時間はわたしの時間、会話のようなものですね。その時間を楽しんでくださいね!
■Juan David Bedoya(以下ホアン先生)インタビュー
リーダーとして、タンゴの世界選手権など数々の大会で入賞し、母国コロンビアでも数回チャンピオンになられていますね。しかし今回、トラディショナルな振り付けのパフォーマンスの中でフォローされているのを拝見しました。
ホアン: フォロワーとして踊るということは私にとってダンスのもう一方の側を理解するための方法でもあるのです。抱擁のあちら側の人間が、私から何を望んでいるのかを知りたかったのです。そしてこちら側(フォロー)も素敵だな、と思ったんです。まったく違う世界ですからね。抱擁のこちら側と向こう側では、世界が違うんですよ。
フォロワーとして踊るとき、何を一番意識していますか。
ホアン: 自分がリーダーのとき、相手から求めることと同じですね。よい抱擁、心地よい空
間。私は与えていると同時に受け取ってもいるわけですから。相手に与えて、よい時間を過ごすことですね。
男性がフォロー、または女性がリードするとき、有利なこと、不利なことはあると思います
か。
ホアン: 有利不利ということではなく、それぞれの役割を踊るには皆それなりのトレーニングをしなければならないということだと思います。たしかに、タンゴはときに体の重さを使って踊りますから、体重のある人のほうが簡単なことはあります。しかしもしあなたの体格が華奢で軽いのなら、トレーニングをしてダンスに必要な特定の筋肉を鍛えて、しっかりとしたリーダーシップのあるリードになるよう練習をすればよいのです。
逆に男性というのは女性に比べておおざっぱというか、気ままなゆったりした生き物ですから、フォローをするときはもっと気をつけて繊細な動きができるよう、やはり必要な筋肉を鍛えなければならないのです。
コロンビアでは、あなたがフォローしてディアナがリードするということを、どのように受け止められましたか?
ホアン: コロンビアの人たちはおおらかですから、「面白いね」と見てくれてますよ。悪意などを感じたことはありませんね。
私はフォローするとき女性的になるわけでなく、ディアナも男性的になるわけではなく、男としてフォロー、女としてリードし、自己のアイデンティティを保ったままロールスイッチしてますから、人々も受け入れやすいのだと思います。それを失ってしまってはだめだと思います。コロンビアは比較的オープンだと感じますよ。「フォロー上手だね!」と言われますし、ディアナはリーダーとしてもとても尊敬されてます。
タンゴダンサーとして、これからの目標は何でしょうか?
ホアン: そうですね、以前は何かに貢献する前に、自分のタンゴを磨きたいと思っていましたが、今では何かを与えることができればと思っています。もちろん、クィアタンゴを推進していきたいですし、タンゴコミュニティにはゆっくりでいいのでもっともっとオープンになってほしいですね。
ディアナとはコロンビアにクィアタンゴのムーブメントを推進していこうと計画しているんです。それが世界的な動きでもありますからね。その流れに貢献することができるのなら、ベストを尽くしたいです。
クィアタンゴを新しいものとして受け入れることが難しい、保守的な人々へのメッセージはありますか?
ホアン: 心を開いてください。受け入れる必要はありません。しかし批判的な目で見る必要もないんですよ。コロンビアでは、「青色が好きなら青色がすきでいいが、ピンクや紫を好きな人を非難するな」というような言い方をします(日本でいう十人十色ですね)。もっと肩の力を抜いて、愛をもって、心を開いてほしいですね。そして純粋に楽しむこと!
日本のダンサーへのメッセージは?
ホアン: アジアでは抱擁の仕方がぎこちないというか、壁があるように感じました。いまでは人々ももう少し慣れてきたようですが。メッセージは同じですね。リラックスして、心を開いて、楽しんで!でも自分の文化、アイデンティティを失わないでください。タンゴはたしかにアルゼンチンのもので文化は違いますが、気にしないで、タンゴにもっていかれちゃってくださいね!
素足でポップスの曲に会わせてのパフォーマンスや、トラディショナルな演目でも途中でロールスイッチするなど、新しいことに挑戦し続けるお二人。これからの活躍が楽しみですね!
【筆者プロフィール】
平沢絢子(ひらさわあやこ)
大阪出身。現在ニューヨークでピアニストとして活動し、おもにバレエピアニストとして様々なスタジオ、バレエ学校で活躍している。ニューヨークに来てからアルゼンチンタンゴをはじめ、ある日ウォルター・ペレス、レオナルド・サルデッラのパフォーマンスを見てクィアタンゴに出会う。女性でもリードができ、曲の途中で役割を交代できることに魅力を感じ、クィアタンゴのイベントに参加。本人はストレートだが関係なく受け入れてくれたコミュニティのあたたかい雰囲気に感動し、ジェンダーに関係なくアルゼンチンタンゴを愛する人すべてにクィアタンゴを知ってほしいと思っている。