今度は世界のダンス界でも問題が勃発・・・
ロシアのウクライナ侵攻も長期化の様相を見せ始め、連日ニュースではこの話題で持ちきりです。一体どこに解決の糸口やそのポイントがあるのか、全く読めない状況になっているようです。本当に早くにこのトラブルが平和に解決することを願うしかありません。
また、コロナにしても新たに強烈な感染力を持ったウィルスが出現しているとのニュースに、政府は相当な危機感を抱いているようです。近い将来に起こると予測されている巨大地震や火山の爆発なども想定して、さまざまな準備を複合的にしていかねばならない時代に入ったことを自覚しておかなければなりません。しかし同時に、自粛生活で萎んでしまったロスを取り戻すべく、経済もどんどん回していかなければなりません。
ダンス界にしても競技会はもちろんのことパーティなどのイベントも活発に開催されるようになってきました。先日はアマチュアとプロのカップルによるアマプロ競技会が開催され、なんと1500を超えるエントリーで華々しく開催されたとのこと。6月に日本武道館で開催される「日本インターナショナルダンス選手権」でも初日の18日(土)はアマプロの競技会。今回は海外からの審査員も招かれることになっており、コロナ以来初めての国際大会である日本インターで、しかも会場が日本武道館とあれば、かなりの数のエントリーが見込まれるでしょう。素晴らしい大会になること間違いありません。
そして、世界最高峰のダンス競技会として君臨してきた「全英選手権(ブラックプール・ダンスフェスティバル)」が、3年ぶりに5月に開催される運びとなりました。英国ではすでにコロナに対する規制は全て撤廃されており、人の動きは自由。会場のウィンターガーデンも、コロナ期間を利用して改修工事が施され、気持ちも新たに全英選手権を開催する準備が進められています。
ところが、です。昨年の11月にブラックプールで開催された「ブリティッシュ・ナショナル選手権」で、チェアマンを長年務めていたマーカス・ヒルトンMBE氏が突然その役から下されました。そして今年5月の全英でも、彼の名司会の姿を見ることはないのです。この「事件」は時間が経つにつれて、なんとも難しそうな展開を見せています。4月の中旬に入ったところで、これまでのブラックプールの歴史を作り上げてきた世界ダンス界の錚々たる重鎮たちが、今年のブラックプールダンスフェスティバルへの不参加を表明しているのです。
英国ダンス界だけでなく、世界ダンス界の中での力関係の変化によるものだろうと思いますが、その背景にはウィンターガーデンの経済的な問題や、新たな世界ダンス組織を発展させるための肯定的な取り組みもあるようにも思えます。が、これまで築き上げられてきた世界最高峰のブラックプールの伝統を打ち壊す可能性のあるやり方に多くのダンス人が反対しているのも事実で、推進派と保守派で真っ向対立する構図が浮かび上がっているのです。
コロナ禍の後はロシアのウクライナ侵攻で、その最中にさらにこのような軋轢が勃発したとは不幸の一言です。これまで英国を中心に発展してきたボールルームダンスが、政治的な圧力や人同士の歪み合いで変な方向に進まないことを切に望みます。日本国内も今年の11月に新バルカーカップが開催されることで、今の現役の選手にとっては心が大きく揺れることになるかもしれません。選手としてはその出場の可否が大問題であり、組織に属する立場上、大きく影響を受けることは必至でしょう。
新たなことを始めるとき、そこには「大義」というものが存在します。それは新たな可能性、夢へのチャレンジであり、理想に向かって邁進する純粋なプラス思考です。ところが、そこにはすでに確立された存在やルールがあるのです。多少なりとも問題はあるにしても、それを「けしからぬ!」と一気に、それこそ「武力」や「金の力」で変革を進めるのは問題を複雑にしてしまいます。
競技ダンスを純粋に楽しみ、人生をかけてダンスに挑むものにとっては、今の世界中で起きている変化は「今だから必要なことかも」と肯定しつつも、それが急なものであればあるほど「衝突」を生み出すのも事実。その現実は非常に悲しいことであり、同時に憤りさえ覚えてしまいます。皆が納得するもっとクレバーな方法がないものなのでしょうか。
(月刊ダンスビュウ2022年6月号掲載)