東北のスター発掘!岩手の21歳 中村奏仁先生[東北TOPICS]
※本記事は月刊ダンスビュウ2024年5月号(3/27発売)の83頁に掲載しています。
近年、社交ダンスのプロ競技選手が少なくなる中で、岩手県大船渡市から世界を目指す、若きプロダンサーがいます。父真司先生(64歳)と母美香先生(44歳)が経営するダンススタジオで働く、中村奏仁(たくと)先生(21歳)です。岩手と宮城の県境、太平洋沿岸に位置する中村スタジオは、自宅兼スタジオとして週7日、定休日なく営業しています。
奏仁先生は、2022年20歳のときに JBDFプロフェッショナルダンス教師5級に合格しました。弱冠20歳という若さでの合格は珍しく、岩手県内の新聞やニュースでも取り上げられたほどです。
高校時代は宮城県にあるテニスの強豪校で全国大会にも出場した奏仁先生。社交ダンスの道に入ったのは、テニス部を引退した高校三年生の夏でした。奏仁先生には父真司先生も驚く体の柔軟性とパワーがあり、メキメキと上達していきます。
2022年4月には、ダンスを始めてから2年でプロの競技会にデビュー。当時の心境を聞いてみると「僕は18歳までダンス経験がなく、大会は初出場で見に行ったこともありませんでした。もちろん、他のプロの踊りも知りません。大会に向けて何かをするという考えがなかったので、初めて大会に出場したときはカルチャーショックを受けました」と、なんともマイペースで怖いもの知らずな一面を覗かせてくれました。
しかし、日々の練習はハードです。週7日スタジオ勤務をこなし、レッスンの入っていない日の午前中に、広い会場を借りてパートナーの美香先生と練習。夜は父真司先生に見てもらいながら調整・練習を繰り返します。今の踊りへの課題は、持っているパワーや体幹の強さを踊りに活かせるようになること。今年はラテン、スタンダード共に東北B級競技会で優勝することを目標にしているそうです。
日々の教室勤務では、大きく年の離れた生徒さんに教えることも多くあります。教師として難しさを感じるところは「生徒さんの体力・性格・技術・身体能力・レッスンの頻度など、さまざまな要素を加味しながらレッスンの内容を考えることです」と話す一方、それがやりがいにも繋がっているようで「いろいろな生徒さんがいる中で、どのように説明すれば伝わるか、どんな練習をすれば技術が身につくかを自分なりに考え、その結果、生徒さんの踊りが上達するとやりがいを感じます」と話してくれました。
岩手のダンス事情については、「大船渡でも元々ダンスを踊る文化はありましたが、最近はダンス人口が減っているので心配です。最終的には東京に進出し、ラテンもスタンダードも世界一になりたいと思っています」とのことで、奏仁先生の憧れのダンサーはブライアン・ワトソン、ドニー・バーンズ、スタンダードはジョン・ウッド、リチャード・グリーブだそうです。
現在パートナーであり母親の美香先生に心境を聞いてみると、「息子がダンスのプロになると言ってくれたとき、パーティで一緒にデモをする位のことしか考えていなかったので、真司先生から『プロの大会に息子と一緒に出るように』と言われたときはびっくりしました。プロの大会に親子で出場?(運動会じゃあるまいし)と、初めは不安や心配ばかりが先立ちましたが、東北地方の先生方が暖かい眼差しで見守ってくださったので、何とかやってこれました。息子との練習も今では日々の活力になっています。良い生徒さん達に恵まれ可愛がられています。生徒さんから教わることは沢山あるので有難いです。息子をよろしくお願いします!」と、メッセージを寄せてくれました。
真司先生からも、息子を思う熱い言葉をいただいています。
「自分で自分の道を決めることが出来ない若者が多い中、自分で選択することが出来る君は凄い。〈芸術は長し、人生は短し〉、決断が早く物事に真摯に取り組む。そんな君へ〈万里の道を見ず、だた万里の天を見る〉という言葉を送る。いつでも君の選んだ道を応援する」…熱い思いを胸に、家族で目標に向かう中村家。若いプロ教師の今後に期待が高まっています。
レポート/木下なつ(プロダンサー・ライター)